47話 第二ラウンド
だが、煙の中から笑い声が響く。
低く、重い声。
崩れた外壁の向こう。
さきほどの巨大竜が、ゆっくりと起き上がる。
頭部は砕け、片翼も失っている。
それでも立つ。
むしろ胸部が開き、中から赤い核が露出していた。
その核の周囲に、無数の目が開く。
フィリアの顔色が変わる。
「……生物じゃない」
「器にされた竜だ」
レナが立ち上がる。
「つまり本体はその核?」
フィリアは頷く。
巨大竜の胸から、別の声が響いた。
「正解だ、人間」
赤い核の中央に、顔が浮かぶ。
白い仮面。
「私は第三観測者、ドラグノス」
レナがうんざりした顔になる。
「番号若くなるほど強い流れ?」
フィリアは即答した。
「だいたいそう」
レナは空を仰いだ。
「やめてほしいわね!」
ドラグノスが咆哮する。
周囲の墜落した三体のワイバーン残骸が赤く光る。
肉片。骨。翼。
それらが宙に浮かび、巨大竜へ吸い込まれていく。
失った翼が再生し、傷が塞がる。
さらに大きくなる。
兵士たちが悲鳴を上げる。
エリシアは塔の窓からその光景を見ていた。
ノヴァはレナの腕から降りる。
静かに前へ出る。
今度は、少し本気で叩く必要がありそうだった。
崩れた石壁の向こうで、巨大竜が再生を終える。
黒い鱗はさらに厚く、六枚翼は八枚へ増え、胸部の赤い核には白い仮面が埋め込まれていた。
第三観測者ドラグノス。
その声は地鳴りのように響く。
「素体としては上々だ」
「この世界の竜は脆いが、器にはなる」
レナが剣を構える。
「言い方が最低!」
フィリアは王城の住民避難を確認しながら呟く。
「性格も最低」
ノヴァは前へ出た。
最低評価で一致した。
ドラグノスが一歩踏み出す。
石畳が割れ、広場に亀裂が走る。
二歩目で噴水が吹き飛ぶ。
三歩目で王城の門が揺れた。
その巨体だけで災害だった。
兵士たちは弓を放つ。
矢は鱗に触れた瞬間、赤熱して溶ける。
レナが顔をしかめる。
「近づくしかないわね」
フィリアは頷く。
「核を壊す」
単純明快だった。
レナが突撃する。
左から回り込み、脚腱を狙う。
ノヴァは正面。
小さな白い影が真正面から巨竜へ走る。
ドラグノスが笑う。
「愚か」
巨大な前脚が振り下ろされる。
ノヴァは直前で消えた。
残像。
次の瞬間、前脚の上に乗っていた。
そのまま肩、首、頭部へと駆け上がる。
レナが叫ぶ。
「そういう登り方!?」
ドラグノスが翼を広げ、広範囲の赤い火球を生成する。
狙いは王都全域。
フィリアが静かに両手を上げた。
王城を中心に、巨大な氷の半球が出現する。
街区ごと覆う防壁。
火球が次々着弾する。
轟音。蒸気。振動。
だが防壁は持ちこたえる。
フィリアの額に汗が滲む。
「……早く」
レナが叫び返す。
「了解!」




