45話 次なる影
赤塔が完全に消える。
空を覆っていた赤雲も晴れ、青空が戻った。
街中で倒れていた人々が少しずつ目を覚ます。
窓が開き、扉が開き、人々が広場へ集まってくる。
ざわめき。
歓声。
「助かった!」
「本当に白い狼だ!」
「英雄だ!」
レナは胸を張る。
「まあ、私もいたけどね!」
数人が拍手した。
少しだけだった。
「なんで!?」
その時、王城の方角から近衛兵たちが現れた。
中央には、一人の少女。
金の髪。
白い外套。
気品ある立ち姿。
年はレナと近い。
彼女はノヴァの前まで来ると、深く一礼した。
「王女エリシアです」
「この国を救ってくださり、感謝します」
レナが小声で言う。
「王女来たわよ王女」
フィリアは淡々と返す。
「格式高い」
ノヴァは少し困った。
礼儀作法は知らない。
なので前足を上げた。
ぺし。
エリシアの頭に軽く肉球。
周囲が凍りつく。
近衛兵たちが青ざめる。
レナは腹を抱えて笑った。
「やったぁぁぁ!」
だが王女は、目を丸くしたあと、くすりと笑った。
「……光栄です」
ノヴァは思った。
この人、強い。
その夜。
王城の客室。
豪華なベッドの上でノヴァは丸くなっていた。
パウは枕を占領。
レナは高級料理に感動し、フィリアは無表情で十人前食べていた。
その時。
窓の外、月の前を黒い影が横切る。
翼を持つ、巨大な何か。
一瞬だけ赤い瞳が光った。
フィリアが立ち上がる。
「……早い」
ノヴァも窓辺へ跳ぶ。
空の彼方へ消える影。
次の敵は、空から来るらしかった。
王城の夜は静かだった。
豪華な客室。
厚い絨毯。
大きな暖炉。
ふかふかの寝台。
ノヴァはベッドの中央で丸くなっている。
完全に主の位置だった。
レナはソファ。
フィリアは床に敷いた布団で睡眠。
パウは枕を独占。
配分に不満はあったが、誰もノヴァをどかせなかった。
だが、窓の外を横切った黒い影。
あれだけは全員の眠気を吹き飛ばした。
翌朝。
王城の会議室には、王女エリシア、近衛隊長、学者たち、そして三人と一匹が集められていた。
地図の上に赤い印が置かれている。
エリシアが説明する。
「昨夜以降、王都周辺の村から報告が相次いでいます」
「家畜の消失。屋根の破壊。空からの咆哮」
レナが腕を組む。
「空飛ぶ迷惑客ね」
フィリアは窓の外を見る。
「偵察じゃない」
「狩りに来てる」
部屋の空気が重くなった。
名称:ナイトメア・ワイバーン
学者の老人が震える声で資料をめくる。
「古記録にあります……」
「門の向こう側に棲む捕食種」
「夜空を裂き、恐怖を食らう竜」
エリシアが読み上げた。
「ナイトメア・ワイバーン」
レナが嫌そうな顔をする。
「名前からして寝かせる気ないわね」
ノヴァはテーブルの上の干し肉を食べていた。
名称より味の方が重要だった。
エリシアはノヴァの前に膝をついた。
近衛兵たちがざわつく。
王女は気にしない。
「お願いがあります」
「王都の民を守るため、力を貸してください」
真っ直ぐな目だった。
ノヴァはじっと見つめる。
そして前足を上げる。
ぺし。
今度は頭ではなく、差し出された手に肉球。
エリシアは微笑んだ。
「契約成立、ですね」
レナが吹き出す。
「交渉スタイル独特!」




