43話 第二形態
セラフィムの体が赤くひび割れ始める。
だが崩れない。
むしろ内部から何かが膨れ上がっていた。
赤塔が脈動し、王都の空がさらに染まる。
観測者は仮面を押さえながら笑う。
「なるほど……なるほど!」
「ならば観測を次の段階へ移そう」
背中の翼が六枚に増える。
塔から無数の赤い線が彼へ流れ込む。
レナが顔をしかめる。
「強化イベント入った!」
ノヴァは静かに構える。
今度は少し強く叩く必要がありそうだった。
赤塔が脈打つ。
王都じゅうの石畳、屋根、窓、井戸水にまで赤い光が走った。
その中心で、セラフィムの背に六枚の翼が広がる。
光の羽ではない。
刃だった。
一枚一枚が細長い赤い刀身となり、空中でうなりを上げる。
レナが眉をひそめる。
「見た目からして性格悪い強化ね」
フィリアは冷静に分析する。
「塔と直結した。王都の魔力を使ってる」
つまり。
街が燃料だった。
ノヴァの耳が立つ。
気に入らない。
セラフィムがゆっくり浮かび上がる。
仮面のひびから赤光が漏れ、声も重なるように変わっていた。
「さあ、第二ラウンドだ」
六枚の翼刃が消える。
次の瞬間、広場全体へ斬撃が走った。
地面。噴水。塔の壁。
見えない速度で切り裂かれる。
レナが跳ぶ。
フィリアが氷壁を張る。
ノヴァは低く滑り込む。
一拍遅れて、背後の建物が上半分だけずれて崩れた。
レナが叫ぶ。
「範囲広すぎる!!」
セラフィムは空中で笑う。
「避けるだけでは街が壊れる」
嫌らしい。
ノヴァは周囲を見る。
広場の先には民家。
隠れている人々の気配。
好き勝手させるわけにはいかない。
フィリアが前へ出る。
「私が受ける」
両手を地面へ。
蒼い模様が広がり、王都中央区画を包む巨大な氷結ドームが立ち上がった。
斬撃が当たる。
ばき、ばき、ばきっ!
外側が削られる。
だが内部は守られる。
レナが目を丸くする。
「都市防壁までできるの!?」
フィリアは歯を食いしばる。
「長くは持たない」
レナが深く息を吸う。
剣を下げ、重心を落とす。
「じゃあ、短期決戦ね」
彼女は一直線に走った。
斬撃の隙間を縫い、石片を蹴り、壁を走る。
セラフィムが翼刃三枚を向ける。
「勇敢だ」
赤刃が迫る。
その寸前。
ノヴァが横から飛び込み、三枚まとめて頭突きで軌道をずらした。
レナが通る。
「ナイス!」
空中へ跳躍。
セラフィムの懐へ入り、剣を振り抜く。
金属音。
観測者の脇腹に初めて傷が走った。
赤い光が散る。
セラフィムの声が低くなる。
「……人間風情が」




