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42話 開戦・観測者


レナが小声で言う。


「作戦ある?」


フィリア。


「ある」

「凍らせる」

「雑!」


ノヴァはすでに走っていた。

会話待ちをしないタイプだった。

白い影が一直線にセラフィムへ迫る。

速い。

だが観測者はさらに一歩早く動いた。

すっと横へずれる。

ノヴァの爪が空を切る。

同時に赤い糸が何十本も出現し、ノヴァの周囲を囲む。

フィリアが叫ぶ。


「切断糸!」


ノヴァは空中で体をひねる。

糸が交差し、石畳を音もなく切り裂いた。

広場に深い格子状の溝が走る。

レナが青ざめる。


「それ当たったら終わるやつ!」


レナが地面を蹴る。

剣閃。

セラフィムの首を狙う鋭い一撃。

だが観測者は片手で受け止めた。

指先だけで。

金属音。

レナの目が見開かれる。


「うそでしょ!?」


セラフィムは微笑む。


「人間にしては良い速度だ」


そのまま殴られる。

レナが吹き飛ぶ。

だが着地寸前、フィリアの氷壁が背を受け止めた。


「ありがと!」

「お礼は後で」


フィリアが杖も持たずに両手を広げる。


「黙って」


その一言と共に、広場全体が蒼く染まった。

噴水。

塔の階段。

周囲の建物の壁。

一斉に氷結。

セラフィムの足元まで凍りつく。

観測者は初めて表情を消した。


「……広域制圧か」


フィリアは指を閉じる。

氷柱が四方から突き上がる。

セラフィムの体を貫く――はずだった。

赤い翼が羽ばたく。

氷柱が全部、途中で切断された。

ばらばらに崩れ落ちる。


ノヴァは着地し、観察していた。

速い。

硬い。

避ける。

でも。


喋る。


つまり集中が必要。

そこを崩せばいい。

ノヴァの目が細くなる。


その時、誰も見ていない場所で。

パウが広場の端をてちてち走っていた。

口にはパン。

途中で落とす。


「ぱう?」


拾おうとして、セラフィムの足元へ転がしてしまう。

観測者が一瞬だけ視線を落とした。

その一瞬。

ノヴァが消えた。


次に見えた時、ノヴァはセラフィムの顔の前にいた。

仮面越しに赤い瞳と目が合う。

セラフィムが初めて驚く。


「速――」


ぺし。

肉球が仮面に触れた。

静寂。

仮面に白い亀裂が一本走る。

そこから全身へ広がっていく。

セラフィムが後退する。


「何を、した……!」


レナが立ち上がり、笑う。


「知らないの?」


フィリアも淡々と告げる。


「触られたら終わり」


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