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フェンリル転生物語  作者: 隣の鈴木君
守りたいもののために
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脅威の接近

そこは街の診療所だった。

少女は三日間眠っていたらしい。

骨に異常はないが、全身打撲と魔力切れ。

黒竜を倒したことで、街は大騒ぎになっていた。

衛兵たちは口々に語る。


「白い稲妻みたいだった」

「いや、神獣だ」

「子犬サイズだったぞ」

「それは盛りすぎだろ」


盛っていない。

本当に子犬サイズだった。

診療所の外には見物人まで集まり始め、窓の隙間から覗こうとする者までいた。

少女はカーテンの裏に隠れた。

注目は苦手だった。



女性冒険者はベッド脇の椅子に座り、柔らかく笑った。


「助けてくれてありがとう。ちゃんとお礼したいの」


少女は首を傾げる。


「まず、名前。ずっと“小さな子”じゃ不便でしょ?」


少女は考える。

人間だった頃の名前。

もう遠い記憶。

口に出せない。

女性はしばらく悩んでから言った。


「……シロ、は安直すぎるか」


少女はじっと見る。


「ユキ?」


耳が少し動く。


「……ノヴァ?」


尻尾が揺れた。

女性の目が輝く。


「気に入った!? ノヴァでいい!?」


少女は二回、尻尾を振った。

こうして彼女は、ノヴァになった。



その夜。

テーブルいっぱいに料理が並んだ。

焼き肉。スープ。パン。蒸した芋。

さらに特別に用意された大皿の肉。

「英雄様へのご褒美だ!」と料理人が胸を張る。

ノヴァは理性を失った。

がつがつ。もぐもぐ。ばくばく。

三分後、皿は空だった。

周囲が静まり返る。


「……小さい体のどこに入った?」


ノヴァは満足げに鼻を鳴らした。



平和は長く続かなかった。

夜更け。

街の鐘が鳴る。

カン、カン、カン――。

緊急事態の合図。

ノヴァの耳が跳ねる。

窓の外。遠くの森が赤く染まっていた。

火事ではない。

魔力の光。

嫌な気配だった。

黒竜のものとは違う。

もっと粘つき、底なしの悪意を感じる。

女性冒険者が剣を掴む。


「また何か来た……!」


ノヴァはベッドから飛び降りた。

まだ体は痛む。

それでも迷わない。

女性が目を見開く。


「待って、安静に――」


ノヴァは振り返り、真っ直ぐ見た。

行く。

その瞳だけで伝える。

女性は数秒黙り、苦笑した。


「……止めても行く顔ね」


彼女はしゃがみ込み、ノヴァの額に軽く触れた。


「じゃあ、一緒に行こう。今度は私も守る側でいる」


ノヴァは鼻を鳴らす。

扉が開く。

夜風が吹き込む。

白い小さなフェンリルと、一人の冒険者。

街の外、赤く染まる森へ向けて走り出した。

その奥で待つものが、次の災厄とも知らずに。

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