表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/117

39話 観測者の操り人形


その夜。

宮殿の屋上。

ノヴァが一匹で空を見ていると、遠い南の空が赤く染まった。

一瞬だけ。

すぐに消える。

だが確かに見えた。

背後からフィリアの声。


「……気づいた?」


ノヴァは振り向く。

彼女の表情は硬い。


「王は倒した」

「でも、“向こう側”そのものは、まだ生きてる」


風が吹く。

赤い残光が、夜空の端にまだ滲んでいた。

北天氷域の夜は静かだった。

雪が降り、オーロラが揺れ、宮殿の灯りだけが遠くに浮かぶ。

だが南の空に残った赤い残光だけが、その静けさにひびを入れていた。

ノヴァは屋上でじっと見つめる。

フィリアが隣に立つ。


「門は閉じた。でも道は残る」

「向こう側は、こちらを見つけてしまった」


難しい話だった。

ノヴァは要するに、また敵が来るのだと理解した。

それで十分だった。



翌朝。

食堂には珍しく真面目な空気が漂っていた。

レナは地図を広げ、パンをかじりながら言う。


「南の赤い光、場所は?」


フィリアが指差す。

北天氷域からずっと南。

山脈を越え、森を越え、大平原の先。


「王都アルセリア」


レナの顔色が変わる。


「この国の中心じゃない!」


フィリアは頷く。


「人口最多。人も物も魔物も集まる場所」

「向こう側が狙うなら最優先」


ノヴァは肉を食べながら聞いていた。

大都市。

つまり、ご飯も多い。

守る価値あり。



レナが立ち上がる。


「行くわよ」


パウも跳ねる。


「ぱう!」


フィリアは保存食、地図、魔道具を手際よくまとめていく。

ノヴァは自分の荷物がないので、ただ待っていた。

レナが見る。


「あなたも何か持ちなさいよ」


ノヴァは魚を一本くわえた。


「……まあいいか」



数日後。

氷域を抜け、雪が減り、木々が戻る。

森では鳥の声。

川には流れる水。

風も柔らかい。

レナが感動していた。


「緑っていいわね……」


フィリアは少し眩しそうに目を細める。


「暖かい」


ノヴァは草の匂いを嗅ぐ。

悪くない。

パウは初めて見る蝶を追いかけて転んだ。



途中の宿場町に着くと、広場が騒がしかった。

旅人たちが口々に話している。


「王都の空に赤い塔が立った!」

「夜ごと人が消えるらしい!」

「兵が近づくと戻ってこない!」


レナが顔をしかめる。


「嫌なイベントの予感しかしない」


フィリアは真顔。


「急ごう」


ノヴァは屋台の串焼きを見ていた。

急ぎつつ食べたい。



町を出てすぐ。

街道脇の森から黒い影が現れた。

今度は仮面の兵でも氷喰いでもない。

人間だった。

黒衣。

赤い紋章。

目だけが赤く染まっている。

十数人。

レナが剣を抜く。


「盗賊?」


フィリアが首を振る。


「操られてる」


黒衣たちは無言で襲いかかる。

剣、鎖、短弓。

動きは速く、連携もある。

ノヴァは前へ出るが、少しだけ躊躇した。

相手は魔獣ではない。

人間だ。



レナが叫ぶ。


「殺さず止めるわよ!」


難易度が上がった。

ノヴァの耳が寝る。

面倒である。

だがやるしかない。

一人目が斬りかかる。

ノヴァは足元へ滑り込み、柄尻を前足で叩く。

剣が飛ぶ。

二人目には冷気で足元だけ凍らせる。

三人目はレナが峰打ち。

フィリアは指先で次々と眠らせるように凍気を当てていく。

数分後。

黒衣たちは全員、雪だるまのように首から下だけ凍らされ、地面に転がっていた。

レナが息を吐く。


「できるじゃない、優しい戦い」


ノヴァは疲れた顔をした。

いつもより神経を使った。



倒れた一人の胸元から、赤い金属片が落ちた。

三角形の徽章。

中央に、目のような模様。

フィリアが拾い上げる。

その顔が険しくなる。


「……観測者の印」


レナが聞き返す。


「誰それ」


フィリアは低く言う。


「向こう側の王たちに仕える者たち」

「世界を壊す前に、まず観察する連中」


ノヴァは印を見つめる。

目の模様。

どこか、こちらを笑っているようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ