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36話 氷喰い①

先頭の氷喰いたちが跳ぶ。

十数体が同時に飛びかかる。

ノヴァは滑るように身を沈め、足元を抜ける。

すれ違いざま。

ぱん。

冷気が弾ける。

空中の十数体がまとめて凍り、互いにぶつかって砕け散った。

レナが走りながら叫ぶ。


「雑に強い!」


フィリアは訂正する。


「前より少し器用になってる」


群れは止まらない。

左右へ広がり、円を描くようにノヴァを囲む。

統率がある。

ただの魔獣ではない。

フィリアの表情が険しくなる。


「指揮個体がいる」


レナが剣を抜き放つ。


「じゃあ頭を叩けば終わる!」


ノヴァはすでに動いていた。

包囲の一角へ突っ込み、黒獣の背を踏み台に跳ぶ。

さらに跳ぶ。

さらに。

群れの上を駆ける白い影。

黒い波の上を走る星のようだった。


指揮個体

群れの中央。

ひときわ大きな個体がいた。

他の倍近い体格。

額に三本角。

口元から黒い霧を吐いている。

それが吠えるたび、群れが動く。

レナが指をさす。


「あれ!」


ノヴァは空中で体をひねり、一直線に落下した。

三角頭の個体が迎え撃つように口を開く。

赤い熱線。

雪原が焼ける。

だがノヴァは熱線の上を蹴って跳んだ。

レナがぽつり。


「今の何?」


誰にも分からなかった。


師匠の一撃

ノヴァは指揮個体の頭上へ着地。

一瞬、視線が合う。

相手の赤い瞳に、初めて迷いが浮かんだ。

ぺし。

前足が額に触れる。

静寂。

次の瞬間、頭部だけが氷塵になって吹き飛んだ。

体は三歩進んで倒れた。

群れが止まる。

統率が切れた。

残った氷喰いたちは互いにぶつかり始めた。

方向を失い、噛みつき合い、雪原で大混戦になる。

レナが笑う。


「今よ!」


彼女が突撃し、剣で次々となぎ払う。

フィリアは広範囲に薄い氷膜を張った。

足を取られた群れが転び、そこへレナの追撃。

ノヴァは高速で走り回り、転んだ個体を順番にぺしぺしと、処理していく。

だがその時。

ノヴァの耳がぴくりと動く。

群れのさらに後方。

まだ何かいる。

雪煙の奥から、ゆっくりと巨大な影が立ち上がった。

山のような体。

六本脚。

背中に無数の黒結晶。

そして胸部に、赤い核。

フィリアの声が低くなる。


「母体……」


レナが振り向く。


「え?」

「氷喰いを生み続ける本体」


嫌な単語だった。

母体が口を開く。

中には無数の小型個体が蠢いている。

レナが青ざめる。


「うわ、まだ増えるの!?」


ノヴァは静かに前へ出た。

食堂を荒らす前に止める。

やはり理由として十分だった。

雪煙の奥で、母体がうごめく。

六本脚が雪原を砕き、背中の黒結晶が不気味に脈打っていた。

胸部の赤い核は鼓動するたびに光を増し、口内では新たな氷喰いたちが次々と形を成している。

レナが顔を引きつらせた。


「……増産工場じゃないのよ」


フィリアも珍しく嫌そうな顔をした。


「放置は危険」


ノヴァは黙って母体を見上げる。

大きい。

気持ち悪い。

増える。

三重に面倒だった。


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