表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/144

32話 開門


その瞬間。

空が割れた。

赤い裂け目が一気に広がり、夜空全体へ走る。

宮殿が震え、雪原がうなる。

レナが部屋から飛び出してきた。


「始まった!?」


裂け目の奥から、巨大な手が伸びてくる。

白でも黒でもない。

金属のような灰色の腕。

爪は山のように大きい。

そして二つの赤い目が、向こう側で開いた。

フィリアが低く告げる。


「……王が来る」


空を裂いた門の向こう。

赤い亀裂の奥で、二つの目が開いていた。

夜空そのものより巨大。

冷たく、無機質で、感情のない赤。

そこから伸びる灰色の腕が、世界の縁を掴む。

ぎし、ぎし、と空が軋んだ。

レナは剣を握る手に汗をにじませる。


「……あれ、サイズ感おかしくない?」


フィリアは静かに答える。


「王だから」


説明になっていない。



裂け目がさらに広がる。

現れた顔は、竜にも狼にも見えた。

巨大な顎。

幾重にも重なる牙。

角の代わりに並ぶ金属質の棘。

だが皮膚ではなく、全身が灰色の装甲に覆われている。

生物と兵器の中間。

その存在が半身を覗かせただけで、吹雪が逆巻き、氷域の地面がひび割れた。

フィリアが告げる。


「名はゼノグラード」

「最初に作られ、最後まで壊れなかった王」


ノヴァは思った。

名前からして強そうで面倒。

ゼノグラードが口を開く。

声ではない。

重圧だった。

空気が沈み、宮殿の柱が砕け、レナが膝をつく。


「くっ……!」


呼吸が苦しい。

遠くの雪山が崩れ、氷原に亀裂が走る。

ただ存在しているだけで災害。

フィリアが前へ出る。

青い冷気を放ち、レナの前に壁を作る。


「下がって」

「これは私たちの領域」


レナが悔しげに歯を食いしばる。

ノヴァはその横を通り過ぎた。

小さな足で。

まっすぐ前へ。

ゼノグラードの赤い瞳が、ノヴァを捉える。

数秒の沈黙。

そして初めて言葉が響いた。


「……核、発見」


声は機械のようで、低く割れている。


「回収開始」


巨大な腕が振り下ろされた。

山が落ちてくるような一撃。

レナが叫ぶ。


「ノヴァ!!」


フィリアが跳ぶ。

空中で両手を広げ、王の腕へ蒼い氷鎖を何十本も撃ち込む。

腕が途中で止まる。


「今!」


ノヴァは走った。

氷原を一直線。

その背後に白銀の神狼の幻影が現れる。

小さな体と、天を覆う巨獣の影。

対比が異様だった。

ゼノグラードの腕へ飛び乗り、装甲の継ぎ目へ爪を突き立てる。

火花。

金属音。

そして――浅い。

硬すぎる。

ノヴァの耳が寝た。

嫌なタイプだった。

ゼノグラードの腕が震える。

装甲の隙間から赤い光が走る。

次の瞬間、衝撃波。

フィリアの氷鎖が砕け、ノヴァごと吹き飛ばされた。

レナが駆け出し、空中でノヴァを受け止める。


「大丈夫!?」


ノヴァは少しふらつきながら立つ。

大丈夫ではある。

だが相手は今までで一番硬い。

フィリアが唇を噛む。


「普通の攻撃じゃ通らない……」


ゼノグラードが門をこじ開ける。

肩。胸。翼。

その全身が世界へ現れ始める。

門の裂け目が悲鳴を上げ、空から火花のような赤雷が落ちる。

地面が沈む。

氷の宮殿が崩れ始めた。

レナが叫ぶ。


「このまま出てきたら終わる!」


フィリアが頷く。


「完全顕現したら、世界が耐えない」


ノヴァは王を見上げる。

小さな幼体のまま。

それでも瞳は静かだった。

逃げる気はない。

フィリアがノヴァの横に立つ。


「私が門ごと凍らせる」

「その一瞬だけ、王の核が露出する」


レナが剣を構える。


「そこを叩くのね」


フィリアはノヴァを見る。


「できる?」


ノヴァは答えず、前足を上げた。

ぺし。

フィリアの腕に軽く肉球。

やる。

そういう意味だった。

フィリアは笑った。


「よし、妹」


ノヴァの耳が寝た。

そこだけは訂正したかった。

崩れゆく氷の宮殿。

裂けた空。

半身を現した王ゼノグラード。

落ち続ける赤雷。

世界の終わりみたいな景色の中で、三人だけが立っていた。

フィリアは両手を広げる。


「一度しかできない」


蒼い瞳がノヴァを見る。


「だから外さないで」


ノヴァは頷く。

レナは剣を握り直した。


「私は?」

「死なないで」

「雑!」


フィリアが息を吸う。

周囲の温度が、一気に落ちた。

雪原の雪が空へ舞い上がる。

氷山が軋み、海が凍り、雲まで白く染まっていく。

彼女の銀髪が宙に浮き、足元から巨大な魔法陣が広がった。

宮殿の残骸。

山脈。

地平線。

北天氷域すべてを覆う、蒼い紋様。

レナが目を見開く。


「……国一個分はあるわよ!?」


フィリアは静かに告げる。


「ここは、私の家だから」


そして両手を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ