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姉の家


最後の一体が崩れ落ちる直前、仮面の口元が動く。


「北天氷域……門、開く……」


砕けて消えた。

フィリアが空を見る。

遠い北の空。

雲の上に、赤い線が走っている。

レナが息を呑む。


「見える……」


空そのものに亀裂が入っていた。

フィリアは歩き出す。


「急ぐよ」


ノヴァもその隣へ並ぶ。

少しだけ。

ほんの少しだけ。

この自称姉を認めてもいいかもしれないと思った。

でも抱っこは別問題だった。

北へ進むほど、世界は静かになっていった。

鳥の声は消え、木々はまばらになり、風だけが雪原を渡る。

足跡もない。

獣の気配もない。

ただ白い大地が、地平線まで続いている。

レナはマフラー代わりに布を巻き直した。


「……ここ、人住めるの?」


フィリアは淡々と答える。


「昔は住んでた」

「今は、私だけ」


レナが少し黙る。

ノヴァは隣を歩きながら、ちらりとフィリアを見た。

その横顔はいつも通り無表情だった。



夕方。

三人の前に巨大な氷壁が現れた。

空へ届くほど高い、蒼白い断崖。

中央には裂け目のような通路があり、内側から淡い光が漏れている。

フィリアが言う。


「北天氷域の入口」


レナは見上げた。


「城門みたい……」


ノヴァは鼻を鳴らす。

冷たい。

澄んだ空気。

自分に近い気配。

少し落ち着く場所だった。



回廊の先には、氷の宮殿があった。

柱も壁も天井も透明な氷でできており、内部に青い光が流れている。

まるで巨大な氷山をそのまま削って作った城。

レナがぽかんとする。


「……これ一人で住んでるの?」


フィリアは頷く。


「掃除は大変」


現実的だった。

ノヴァは中へ入る。

床は滑らない。

温度もちょうどいい。

奥には肉を冷やして保存できそうな部屋もある。

高評価。



フィリアはノヴァを見て微笑んだ。


「気に入った?」


ノヴァが頷く前に、抱き上げられた。


「歓迎会しよう」


またである。

レナは笑いながら椅子へ座る。


「もう諦めなさい」


ノヴァは無言でじたばたした。

少ししか効かなかった。



食卓には温かいスープ、保存肉、魚、焼きパンが並んだ。

氷の宮殿なのに料理はちゃんとしている。

レナが感心する。


「見直した」


フィリアは地図を広げた。

北天氷域のさらに北。

そこには何も描かれていない白紙の領域がある。


「ここに門がある」

「世界の天蓋にできた裂け目」

「明日には完全に開く」


レナの表情が引き締まる。


「向こうから何が来るの?」


フィリアは少し黙った。


「神話の失敗作」


部屋の空気が冷える。


「昔、神獣と竜を混ぜて作られた兵器たち」

「その生き残りが、天蓋の向こうに封じられてる」


ノヴァの耳が立つ。

嫌な予感しかしない。



その夜。

レナが眠ったあと、ノヴァは宮殿の屋上にいた。

空にはオーロラのような光。

その中央に、赤い裂け目。

フィリアが隣へ来る。

しばらく無言。

やがて彼女が言った。


「怖い?」


ノヴァは少し考えた。

怖い。

でも、それ以上に面倒くさい。

そんな顔をした。

フィリアは小さく笑う。


「あなたらしい」


そして真面目な声になる。


「もし明日、私に何かあったら」


ノヴァが睨む。

縁起でもない。

フィリアは肩をすくめた。


「怒られた。じゃあ言い直す」


彼女はノヴァの額に指を当てた。


「明日、一緒に勝とう」


ノヴァはゆっくり頷いた。


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