北天氷域
街道脇の草原で昼休憩。
レナがパンと干し肉を並べる。
ノヴァには肉多め。
フィリアは座るなり、ノヴァを抱き上げた。
「よしよし」
突然のもふもふタイム。
ノヴァは固まった。
レナが吹き出す。
「抵抗しなさいよ!」
ノヴァは試しに抜けようとした。
……抜けられない。
細腕に見えて、異様に力が強い。
フィリアは頬ずりしながら言う。
「姉として当然」
ノヴァは心の中で否定した。
当然ではない。
食後、三人は再び歩き出す。
レナが尋ねた。
「その北天氷域って何なの?」
フィリアの表情が少し真面目になる。
「世界の最北端」
「空と地が最も近くなる場所」
「昔、神獣や竜が争い、空に傷をつけた戦場」
レナが眉をひそめる。
「スケール大きいわね……」
フィリアは頷く。
「そこに“門”がある」
「天蓋の向こうへ通じる門」
ノヴァは歩きながら思った。
最近、門とか核とか器とか、難しい単語が多い。
森での実力確認
夕方、街道脇の森へ入った時だった。
茂みが揺れる。
低い唸り声。
出てきたのは、牙猪三頭。
以前ノヴァが倒したものより一回り大きい。
レナが剣に手をかける。
「やる?」
フィリアが一歩前へ出た。
「任せて」
彼女は指先を軽く振った。
ぱき。
空気が凍る音。
次の瞬間、三頭まとめて氷像になっていた。
しかもポーズまで綺麗に止まっている。
レナが口を開ける。
「……早すぎない?」
フィリアは首を傾げる。
「遅かった?」
ノヴァは氷像を前足でつついた。
かちこち。
少し悔しい。
その夜。
焚き火の前。
レナが魚を焼き、ノヴァが待機し、フィリアがノヴァを膝に乗せていた。
「だから降ろしてあげなさいって」
「嫌」
「嫌って何よ」
ノヴァは無表情だった。
諦めの境地である。
フィリアはノヴァの耳を撫でながら言う。
「あなた、力の使い方が雑」
ノヴァの耳がぴくり。
「冷気は押し潰すだけじゃない」
「流れを読む。削る。閉じ込める。守る」
レナが笑う。
「説教されてるわよ」
ノヴァは焚き火越しにフィリアを見た。
少し気に入らない。
するとフィリアも見返し、微笑む。
「明日、教えてあげる」
挑発だった。
その時。
空が一瞬だけ、裂けた。
三人とも顔を上げる。
星空の中央。
まるで布を切ったように、細い黒線が走る。
そこから赤い光が漏れた。
すぐに閉じる。
だが確かに見えた。
レナが小さく呟く。
「……門?」
フィリアの顔が険しくなる。
「想像より早い」
ノヴァも立ち上がる。
本能がざわつく。
あの向こうから、何かが来る。
しかも、とても嫌なやつだ。




