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迫りくる悪意




その夜。

グランベルの外れ。

誰もいない採石場に、黒い霧が集まっていた。

霧は人の形となり、低く笑う。


「セレスもミレアも、ラズまで敗北か。出来の悪い弟と妹を持つと大変だな」


赤い瞳が闇に灯る。


「なら次は、私が行こう」


足元の石が凍りつく。

ただし白い氷ではない。

黒い氷。

そして霧は消えた。




翌朝

レナは地図を広げていた。


「次は南の港町。魚料理が有名らしい」


ノヴァの耳が立つ。

魚。


「あと最近、海で幽霊船が出るって噂」


耳が少し下がる。

面倒そう。


「でも海鮮丼が絶品らしい」


耳が再び立つ。

レナは笑った。


「現金……じゃなくて現魚ね」


ノヴァは胸を張った。

こうして白き幼体フェンリルと剣士レナは、また新たな旅へ出る。

南へ向かう街道は、これまでと景色がまるで違った。

乾いた山道ではなく、潮風の吹く平野。

道端には背の低いヤシに似た木々。

空には白い鳥が旋回している。

そして風が運んでくる。

塩気。

魚。

焼き貝。

ノヴァの足取りが急に軽くなった。


「わかりやすっ」


レナが笑う。

さっきまで普通に歩いていた白い毛玉が、今は小走りで先導している。

目的地は明白だった。



昼過ぎ、港町マリスへ到着した。

青い海。

石造りの防波堤。

大小の船が何十隻も並ぶ大きな港。

市場には魚介が山のように積まれ、人々の呼び声が飛び交う。


「イカ安いよ!」

「朝獲れマグロ!」

「貝三つで一枚!」


ノヴァは一瞬で消えた。


「……あれ?」


レナが見回す。

数秒後。

焼き魚屋台の前で、行儀よく座っているノヴァを発見した。

店主のおばちゃんが笑っていた。


「この子、さっきから無言で圧かけてくるんだけど」


ノヴァは真剣な顔だった。

レナは財布を出した。


「一番いいのください」



宿に荷物を置いたあと、二人は名物食堂へ向かった。

木造の賑やかな店。

看板には《潮騒亭》とある。

出てきたのは、山盛りの海鮮丼だった。

マグロ。

サーモン。

白身魚。

イクラ。

ウニ。

ノヴァの瞳が輝く。

神話級の輝きだった。


「待て」


レナが箸を持ち上げる。


「私の分に手を出したら戦争よ」


ノヴァは真面目に頷いた。

一分後。

レナのどんぶりからウニだけ消えていた。


「やったわね!?」


ノヴァは視線を逸らした。



食後、港を歩いていると漁師たちの会話が聞こえた。


「また昨夜も出たらしい」

「沖の霧の中だってよ」

「鐘の音までしたそうだ」


レナが立ち止まる。


「鐘?」


ノヴァの耳もぴくりと動く。

最近、鐘に縁があったばかりだ。

年配の漁師が二人を見る。


「旅人さんか。忠告しとく。夜の海には出るな」

「黒い船が現れて、船ごと消える」

「戻ってきた者は……いない」


ノヴァは思った。

魚料理だけ食べて帰る案もある。



その夜。

宿の窓から海を眺めていた。

月明かりが波を照らし、港は静かだ。

昼の喧騒が嘘のように、人影も少ない。

レナは剣の手入れをしながら言う。


「行く?」


ノヴァはしばらく考えた。

危険そう。

面倒そう。

眠い。

だが。

外から香ばしい匂いがした。

夜店の焼きイカ。

ノヴァの耳が立つ。

レナは吹き出した。


「判断基準ぶれないわね」


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