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4人目の悪意の兄弟


真夜中。

二人は小舟を借りて港を出た。

船を漕ぐのはレナ。

ノヴァは船首で風を読む。

潮の流れ。

霧の湿り気。

遠くの音。

やがて海面に、黒い霧が現れた。

月光を吸い込むような、濃い霧。

その奥から――

ゴォォォン。

低く、重い鐘の音。

レナが顔をしかめる。


「また鐘……!」


霧が割れた。

そこから現れたのは、巨大な帆船。

だが普通の船ではない。

帆は破れ、船体は腐食し、甲板には誰もいない。

それなのに、勝手に進んでくる。

船首には黒い氷がびっしり張りついていた。

そして舵輪の前に、一人の女が立っていた。

長い黒髪。

黒い外套。

赤い瞳。

女は静かに笑う。


「ようやく会えたわ、白き子」


ノヴァは心の中でつぶやいた。

……また赤い目。



黒い霧の海上で、幽霊船は音もなく迫ってきた。

腐った帆が風もないのに膨らみ、船体を覆う黒い氷が月明かりを鈍く返す。

舵輪の前に立つ女は、ゆっくりと片手を上げた。


「私はネヴィア。あの子たちの姉。」


声は静かで、妙に澄んでいた。


「あなたを迎えに来たの」


ノヴァは思った。

最近こういう勧誘、多い。

レナが櫂を置き、剣を抜く。


「断るわ。うちの相棒は忙しいの」


ネヴィアは首を傾げる。


「忙しい?」

「食事と昼寝で」


ノヴァは少し不満だった。

それだけではない。

たまに人助けもしている。


ネヴィアが指先で海面をなぞる。

その瞬間、小舟の周囲の海が凍った。

ぱきぱきと音を立て、黒い氷が広がる。

レナが舌打ちする。


「海ごと凍らせる気!?」


ノヴァは即座に船首から跳んだ。

氷の上へ着地。

冷たい。

だが自分の属性に近い。問題ない。

ネヴィアの目が細くなる。


「やはり可愛い」


ノヴァは心底嫌そうな顔をした。

幽霊船の甲板から、人影が次々と降りてきた。

水夫服を着た骸骨。

体を黒氷で補強された亡者たち。

錆びた剣や銛を持ち、無言で迫る。

レナが小舟から飛び降り、ノヴァの横へ着地した。


「右、任せる!」


ノヴァは頷く。

骸骨兵の群れへ突撃。

小さな体で足元へ潜り込み、膝関節を噛み砕く。

倒れたところへ前足一閃。頭骨が砕け散る。

レナは三体まとめて薙ぎ払う。


「相変わらず手数が多いわね!」


ノヴァは別の一体を氷漬けにして蹴り飛ばした。

海へ落ち、砕ける。

ネヴィアは戦いを眺めながら微笑んでいた。


「暴れる姿も素敵」


レナが顔をしかめる。


「気持ち悪い口説き方しないで」


ネヴィアは気にしない。


「白き子。あなたは神話の核を持つ」

「その力、海の底で永遠に保存してあげる」


ノヴァの耳が寝た。

保存食扱いはさすがに失礼だった。


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