英雄の起床
その直後。
ノヴァの足から力が抜けた。
どさり、とその場に倒れる。
ラズが慌てる。
「え、今の技の反動!?」
採掘場へ駆け込んできたレナが叫ぶ。
「ノヴァ!」
彼女は白い小さな体を抱き上げる。
ノヴァは薄く目を開け、彼女を見る。
無事だった。
それだけ確認して、安心する。
そして最後に、腹が鳴った。
ぐぅ。
レナは泣きそうな顔で笑った。
「……もう、ほんとにそれなのね」
鉱山都市グランベルは救われた。
伝説の鐘は砕かれ、災厄は去った。
そしてその日、人々は新たな伝説を語り始める。
白き幼体フェンリルが放った、神話の一撃。
ノヴァ・インパクト。
グランベルの朝は早い。
鍛冶場の槌音。
鉱夫たちの掛け声。
蒸気機関の吐く白煙。
そんな活気ある街の中心で――
「まだ起きないの!?」
レナの声が響いた。
宿の最上階、特別室。
ノヴァはふかふかのベッドに埋まり、丸くなって爆睡していた。
あれほど派手な必殺技を放った英雄とは思えない寝顔である。
ノヴァが倒れたあと、街の人々は大騒ぎだった。
「神獣様に医者を!」
「一番いい部屋を空けろ!」
「肉を運べ!」
「いや消化にいいスープも必要だ!」
結果。
部屋には山盛りの肉。
高級毛布。
専属看護師。
なぜか花束。
レナは呆れた。
「私より扱い良くない?」
看護師は真顔で答えた。
「当然です」
レナは少し傷ついた。
三日目の昼。
ノヴァの鼻先がひくひく動く。
焼きたてベーコンの匂い。
ぴく。
耳が立つ。
レナは見逃さない。
「起きたね?」
ノヴァは寝たふりを決め込む。
だが腹が鳴った。
ぐぅ。
「起きてるじゃない!」
レナが布団を剥がす。
白い毛玉が転がり出た。
ノヴァは不満げに目を開ける。
まだ寝られたのに。
「三日も寝たでしょ!」
ノヴァは首を傾げる。
三日しか?という顔だった。
外へ出ると、騒ぎになった。
「ノヴァ様だ!」
「白き守護者!」
「ノヴァ・インパクトやって!」
最後のやつは無理である。
子どもたちが集まり、もふもふしようと手を伸ばす。
ノヴァは華麗に回避。
だが包囲された。
左右前後、逃げ道なし。
「さあ撫でさせろー!」
ノヴァはレナの背後へ逃げ込む。
レナは爆笑した。
「災厄は倒せても子どもには弱いのね」
ギルド会館では、末弟ラズが椅子に座らされていた。
両手は拘束されているが、なぜかお菓子を食べている。
「これうま」
レナが眉をひそめる。
「なんでそんなくつろいでるのよ」
ギルド長ガルドが肩をすくめる。
「事情を全部吐いた。兄妹に利用されてたらしい」
ラズは頬杖をつく。
「利用っていうか、面白そうだから乗っただけ」
ノヴァが近づく。
ラズは少し身構える。
前回のぺしが効いたらしい。
ノヴァはじっと見てから、テーブルのクッキーを一枚くわえて去った。
「それ僕の!」
知らない。




