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鐘の音


西への街道は、東よりずっと荒れていた。

石畳はひび割れ、ところどころ土道になっている。

荷馬車の轍が深く刻まれ、風は乾いていた。

レナは荷物を背負い、鼻歌交じりに歩く。

ノヴァはその少し前を進み、周囲を警戒していた。

……ように見えるが、実際は違う。

前方三十歩先。

露店の匂い。

焼いた肉。

ノヴァの鼻は極めて優秀だった。


「こら、警戒じゃなくて食べ物探してるでしょ」


レナが呆れた声を出す。

ノヴァは聞こえないふりをした。



昼頃、小さな宿場町へ着いた。

旅人向けの屋台が並び、煙と香辛料の香りが漂う。

ノヴァは一直線に一軒の串焼き屋へ向かった。

迷いがない。

店主の髭男が目を丸くする。


「なんだこの白いの。犬か?」


違う。


「狼か?」


惜しい。

レナが胸を張る。


「フェンリルよ」


店主は三秒黙った。


「じゃあ看板犬でいいか」


ノヴァは前足を上げた。

ぺし。

店主の額に肉球が当たり、周囲が笑いに包まれる。

結局、串焼きを一本おまけしてもらった。

世の中、結果が大事である。




夕方。

山脈の麓に広がる巨大な街が見えてきた。

岩肌を削って築かれた城壁。

煙突から立ち上る煤煙。

巨大な昇降機が山腹へ伸びている。

鉱山都市グランベル。

鉄と石と火の街だった。

門をくぐると、金属を打つ音が絶え間なく響く。

鍛冶屋。鉱夫。荷運び人。

誰もが忙しく働いている。

だが、その顔には疲れがあった。

レナが近くの老婆へ尋ねる。


「最近、何かあった?」


老婆は肩をすくめた。


「夜になると鐘が鳴るんだよ。山の奥からな」

「誰か行った?」

「行ったさ。戻ってきたのは半分だけだ」


ノヴァの耳がぴくりと動く。

嫌な依頼確定だった。



その夜。

宿の窓から山を見ていた。

暗い山肌に、いくつもの坑道の灯りが点々と見える。

街はまだ賑やかだが、人々はどこか落ち着かない。

やがて日付が変わる頃。

――ゴォォォン。

低く、重い音。

街全体の空気が震えた。

鐘。

確かに鐘の音だ。

だが街の中ではない。

山の奥深く。

地中から響くような、不吉な鐘。

二度。

三度。

音が鳴るたび、宿の窓ガラスが微かに揺れた。

ノヴァの毛が逆立つ。

音の中に、魔力が混じっている。

レナも真顔になる。


「……ただの鐘じゃないわね」


ノヴァは頷いた。

しかも。

鐘の音に混じって、別の気配がある。

獣。

巨大な何か。

地の底を這うような、重い存在感。


その時。

宿の扉が激しく叩かれた。


「開けろ! ギルドだ!」


レナが扉を開けると、煤まみれの男が立っていた。

息を切らし、顔は青ざめている。


「た、大変だ! 第三坑道が崩れた!」

「鐘のあと?」

「そうだ! 中にまだ十人以上取り残されてる!」


レナは即座に剣を取る。

ノヴァも立ち上がる。

男はノヴァを見るなり言葉を失った。


「……なんで宿に白いもふもふが」

「重要戦力よ」


レナは当然のように答えた。

ノヴァは胸を張った。



夜の山道を駆け上がる。

前方には崩れた坑道の入口。

鉱夫たちが叫び、木材を運び、必死に救助している。

中からは、かすかな助けを呼ぶ声。

そして奥底から、また鳴る。

――ゴォォォン。

今度は近い。

地面が震え、小石が跳ねる。

鉱夫たちが怯えた顔になる。


「来るぞ……!」


闇の坑道の奥。

二つの赤い光が灯った。

目だった。

低いうなり声。

岩壁を削るような爪音。

そして現れたのは――

巨大な、鉄色の角を持つ獣だった。

牛にも猪にも見える巨体。

全身を鉱石のような装甲で覆い、鼻息は蒸気のように白い。

ノヴァは思った。


……また面倒なのが出た。


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