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英雄の眠り


さっきまで勝利に沸いていた人々も、空気を読んだように声を失っていた。

衛兵隊長が兜を脱ぐ。

冒険者たちも武器を下ろす。

誰もが知っている。

この街は、この小さな獣に救われた。

二度も。

三度も。

その代償が、今ここにあるのだと。

レナはノヴァを抱いたまま、顔を伏せた。


「……私、まだ何も返してない」


ご飯をあげただけ。

一緒に旅しただけ。

助けられてばかりだった。


「だから、勝手に死なないで……」


涙が、ノヴァの額へ落ちる。

涙がノヴァの体へと吸収される

その時。

ノヴァの体が、うっすら光った。

レナが顔を上げる。

白銀の淡い光。

毛並みの奥から滲むように輝き、雪の粒がふわりと浮かび上がる。


「……え?」


衛兵隊長が息を呑む。

冒険者の一人が震える声で呟く。


「神の……奇跡?」


光は強くなっていく。

冷たさではない。

春の日差しのような、柔らかな温もり。

レナの腕の中で、ノヴァの体が少しずつ軽く脈打ち始めた。

とくん。

とくん。

確かな鼓動。


「ノヴァ!」


レナの声が弾む。




ノヴァは薄く目を開けた。

視界はぼやけている。

でも、目の前に泣きそうなレナの顔があった。

無事だった。

それで安心した。

ノヴァは小さく鼻を鳴らす。

だが体は動かない。

猛烈に眠い。

深く、底なしに眠い。

レナが涙をぬぐいながら笑う。


「起きた……起きたけど、寝そうね」


その通りだった。

ノヴァは最後の力で前足を上げる。

ぺし。

レナの頬に、弱々しい肉球。


「……それ、今やる?」


周囲から安堵の笑いが漏れた。

ノヴァは満足し、そのまま目を閉じる。

今度は終わりではない。

回復のための眠り。

長い、深い眠りだった。




三日後。

ハルネの街の中央広場には、大きな石像が建てられ始めていた。

台座にはこう刻まれる。

《白き守護者 ノヴァ》

その頃本人は。

宿の一番いい部屋で、ふかふかの布団に埋まり、爆睡していた。

枕元には山盛りの肉。

起きたらすぐ食べられるように。

レナは椅子に座り、その寝顔を見ながらため息をつく。


「……ほんと、世話の焼ける神獣様」


ノヴァの尻尾が、寝ながらぴくっと動いた。

どうやら夢の中でも、ご飯を追いかけているらしい。



七日後。

ノヴァはまだ寝ていた。

時々、耳が動く。

尻尾がぱたっと揺れる。

肉の匂いを近づけると鼻先がひくひくする。

だが目は開けない。


「絶対わざとでしょ、これ」


レナは腕を組んでベッドを睨んだ。

白い毛玉のように丸まり、最高級の羽毛布団に埋もれているノヴァ。

宿の主人は感動した顔で言う。


「神獣様のお眠りだ……神々しい……」

「ただの寝坊よ」


レナは即答した。




ハルネの街は、すっかり平和を取り戻していた。

凍った建物は修復され、市場も再開。

人々は以前より明るく笑っている。

そしてどこへ行っても、ノヴァの話題だった。

《白き守護者クッキー》

《ノヴァまんじゅう》

《幼体フェンリルのしっぽパン》

レナは露店を見て頭を抱えた。


「商人はなんてたくましいのよ……」


しかも似顔絵は毎回違う。

犬寄り。

狼寄り。

なぜか羽が生えているものまである。

ノヴァ本人が見たら怒りそうだった。

たぶん前足でぺしぺしする。


英雄が目覚めるのは——もうすぐだ


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