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フェンリル転生物語  作者: 隣の鈴木君
悪意を滅するために
14/21

二度の力の代償


その中心で。

ノヴァの前足が崩れるように折れた。

どさり、と雪の上に倒れる。

レナの顔色が変わる。


「ノヴァ!」


小さな体から白い息が細く漏れる。

意識が遠い。

体が冷えすぎて、自分の感覚すら薄い。

でも視界の端で見える。

みんなが前へ進んでいる。

衛兵たちが叫んでいる。

子どもたちが泣きやんでいる。

それで、十分だった。

レナが駆け寄り、ノヴァを抱き上げる。


「ばか……本当にばか……!」


声が震えていた。

ノヴァは薄く目を開ける。

大丈夫。

そう伝えたくて、鼻先を彼女の腕へ押しつける。

だが力が入らない。

代わりに、腹が鳴った。

ぐぅ。

レナは涙目のまま笑ってしまった。


「……こんな時まで、それなのね」


広場の向こうでは、凍りついたセレスが静かにひび割れ始めていた。

まだ終わっていない。

だが流れは、変わった。

白き幼体フェンリルが、もう一度世界を凍らせたことで。

レナの腕の中で、ノヴァは荒い息をしていた。

体の感覚は遠い。

前足は痺れ、胸は焼けるように痛む。

視界も揺れている。

それでも――広場の向こうを見た。

凍りついたセレスの体表に、ひびが走る。

ミレアも影を使って氷を砕き始めている。

まだ終わっていない。

ここで逃がせば、また誰かが傷つく。

また街が燃える。

またレナが危険な場所へ立つ。

ノヴァは、レナの腕から身をよじった。


「だめ!」


レナが抱き留めようとする。

だがノヴァは雪の上へ降り立つ。

足が震える。

一歩。

膝が折れそうになる。

二歩。

それでも前へ。

レナの声が背中に刺さる。


「ノヴァ、もう十分よ!」


違う。

まだだ。


中央広場は静まり返っていた。

誰もが、その小さな背中を見ていた。

傷だらけで。

ふらつきながら。

今にも倒れそうな幼い獣が、敵へ向かって歩いていく。

セレスが氷を砕きながら笑う。


「執念深いな」


ミレアも苦笑する。


「ほんと、しつこい子」


ノヴァの瞳は冷たい。

もう言葉も、駆け引きもいらない。

終わらせる。

ノヴァは深く息を吸った。

最後の魔力。

最後の体力。

最後の一歩。

すべてを一点に集める。

小さな体の輪郭が白く光り始めた。

雪が舞い上がる。

石畳の霜が逆巻く。

空気が張り詰める。

セレスの顔色が変わった。


「ミレア、避けろ!」


遅い。

ノヴァが消えた。

白い閃光。

まずセレスの胸を貫いた。

影の防壁も、氷の殻も、魔力の障壁も意味を成さない。

純粋な速度と力が、すべてを突き抜ける。

セレスの目が見開かれたまま止まる。

次の瞬間、ノヴァは反転していた。

ミレアが悲鳴を上げる。


「お兄――」


声は途中で途切れた。

白い牙が喉元へ届き、そのまま凍てつく衝撃が全身を走る。

ミレアの体は氷像のように固まり、砕け散る。

静寂。

セレスは一歩後ろへ揺れ、膝をつく。

胸の中心には、ぽっかりと穴が開いていた。

彼は血を吐きながら、ノヴァを見る。


「……なるほど……君は……」


最後まで言い切れず、倒れた。

二人は動かなくなった。

ノヴァは着地した。

いや、落ちた。

四肢に力が入らない。

立とうとしても足が動かない。

広場の雪に顔から倒れ込む。

レナが駆けた。


「ノヴァ!!」


抱き上げる。

冷たい。

軽い。

そして、呼吸が浅い。

レナの声が震える。


「いや……いやよ……!」


ノヴァは薄く目を開けた。

泣いている顔。

そんな顔、してほしくない。

小さく舌を伸ばし、レナの手をぺろりと舐めた。

大丈夫。

そう伝えたかった。

けれど次の瞬間、意識が遠のく。

世界が白くぼやけていく。

広場では歓声が上がっていた。

街は救われた。

誰かが泣き、誰かが笑っている。

その全部を遠く聞きながら、ノヴァは静かに目を閉じた。

レナの腕の中で。

歓声は次第に遠のいていった。

レナの耳には、自分の鼓動しか聞こえない。

腕の中のノヴァは、あまりにも静かだった。

白い毛並みは雪に溶けるようで、呼吸も感じ取れないほど弱い。


「……いや……」


レナの喉から、掠れた声が漏れる。


「起きて。ねえ、起きてよ……」


肩を揺する。

返事はない。

いつもなら鬱陶しそうに顔をそむけるか、腹が減ったと鳴くか、前足でぺしっと叩いてくるのに。

何もない。ぴくりとも、動かない


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