142話 宿題
アルヴェリアはノヴァの横に座り、頭を優しく撫でた。
『よく頑張った』
ノヴァの耳がぴくっと動く。
『疲れたなら、休んでもよい』
ノヴァは顔を上げる。
「……ほんと?」
『ただし、投げ出すのとは違う』
「う」
鋭い正論だった。
賢者グラン・テスタは杖を鳴らす。
かつん。
『本日の授業はここまでとする』
ノヴァの翼がばさっと立つ。
「やった!」
黒板の文字が消える。
椅子がしまわれる。
本棚まで少し拍手している気がした。
レナが笑う。
「教室全体が解放ムード!」
しかし賢者は続けた。
『ただし宿題はある』
全員、止まる。
ノヴァの笑顔が凍る。
「……え」
黒板に文字。
“1から10まで数えてこい”
沈黙。
レナが瞬きをする。
「やさしい!」
フィリアが頷く。
「配慮あり」
ノヴァはしばらく考えた後、小さく言った。
「……それなら、できる」
賢者が満足そうに頷く。
『では明日また来るがよい』
ノヴァは即答する
「こない」
ゼルクが腹を抱えて笑う。
「返事だけは早い!」
帰り道
石門が開き、森の風が入ってくる。
ノヴァは母の手を握りながら、とぼとぼ歩く。
「つぎ、たたかうとこ、いきたい」
アルヴェリアは優しく微笑む。
『まずは宿題だ』
ノヴァは空を見上げて呟いた。
「……やっぱり、てきだ」
夕暮れの樹海。
石門を出た一行は、森の帰り道を歩いていた。
赤い木漏れ日。
やわらかな風。
鳥の声。
だがノヴァだけは、世界の終わりみたいな顔をしていた。
「……しゅくだい」
レナが隣で笑いをこらえる。
「そんなに重いの?」
ノヴァは真顔で頷く。
「みえないてき」
ゼルクが肩を震わせる。
「確かに厄介だ」
アルヴェリアが優しく言う。
『では歩きながらやろう。1から10まで数えてみなさい』
ノヴァ、足を止める。
「いま?」
『いまだ』
ノヴァは深く息を吸う。
戦闘前の顔だった。
レナが吹き出す。
「覚悟の入り方が違う!」
ノヴァは拳を握る。
「1……2……3……」
順調だった。
「4……5……6……」
フィリアが記録する。
「安定進行」
「7……8……9……」
レナが身を乗り出す。
「いける!」
ノヴァは満面の笑みで叫んだ。
「11!」
全員、止まる。
レナがその場にしゃがみ込む。
「飛ばしたぁぁぁ!!」
ゼルクが腹を抱える。
「最後で跳ねた!」
フィリアは冷静。
「10、行方不明」
ノヴァはきょとん。
「……だめ?」
アルヴェリアは優しく首を振る。
『惜しい』
「9のつぎ、つよそうなの、11」
レナが涙目で笑う。
「数字に格付けしないで!」
ゼルクも頷く。
「10が不憫だな」
ノヴァはもう一度構える。
「1……2……3……4……5……6……7……8……9……10!」
静寂。
次の瞬間。
森中に光が走った。
空から花びら。
どこからか鐘の音。
レナが跳ねる。
「できたぁぁぁ!!」
フィリアが記録する。
「宿題、部分達成」




