141話 ノヴァの現実逃避
次の瞬間。
白金の光がノヴァを包み込む。
翼が広がり、体が変化していく。
眩い閃光の中から現れたのは――
白銀の獣。
神話級の魔狼。
牙は月光のように鋭く、瞳は星のように輝くフェンリルの姿
「授業放棄のスケールがでかい!!」
前の幼体のフェンリルとなったノヴァは、堂々と伏せる。
「むずかしい」
「だから、仔フェンリルにもどる。そしたら、べんきょう、いらない」
ゼルクが腹を抱える。
「理屈が雑すぎる!」
フィリアは冷静。
「逃避形態変化」
その時。
空間がふわりと揺れた。
一頭の気高き白獣が近づいてくる。
ノヴァの母。
圧倒的な威厳。
静かな眼差し。
知識の間の空気が一変する。
レナが姿勢を正す。
「お母様きた……!」
アルヴェリアはノヴァを見つめ、短く告げる。
『戻りなさい』
ノヴァは耳を伏せる。
「やだ」
『戻りなさい』
少し強めだった。
ノヴァ、目を逸らす。
「……むり」
アルヴェリアは前足で、ぽん、とノヴァの額に触れた。
瞬間。
白金の光が逆流する。
フェンリルの姿が大きくなり、翼は大きくなり、牙は無くなっていく。
数秒後。
そこにいたのは、元の小さな女の子姿のノヴァ。
床にぺたんと座り込んでいた。
「……ひどい」
レナが吹き出す。
「お母さん強すぎる!」
アルヴェリアは人間姿のノヴァの前に座る。
『姿を変えても、問題は消えぬ』
『分からぬなら学べ』
ノヴァはむくれる。
「たたかいなら、かてる」
『今は戦いではなく、学びに勝ちなさい』
沈黙。
ゼルクが感心する。
「名言だな」
フィリアも頷く。
「教育適性、高」
賢者グラン・テスタが咳払いする。
『では改めて。“轟々”』
ノヴァはしょんぼりしながら立ち上がる。
母親の視線を感じ、逃げられない。
「……ごうごう?」
黒板が光った。
『正解』
レナが飛び跳ねる。
「お母さん効果すごい!!」
“轟々” を正解した直後。
黒板の光が消えると同時に、ノヴァはその場へぺたんと座り込んだ。
翼はだらん。
肩もしょんぼり。
そして、心の底から絞り出すように言った。
「……もう、べんきょうやだ」
静寂。
レナが思わず胸を押さえる。
「声に魂がこもってる……」
ゼルクは肩を震わせる。
「今までで一番切実だ」
フィリアが淡々と記録する。
「精神疲労、蓄積」
ノヴァは床にごろんと寝転がる。
「たたかいなら、なんにんでもいい」
「でも、もじと、すうじ、いっぱいくる」
「おわらない」
レナが笑いながら頷く。
「ラッシュ戦みたいに感じてるのね」
ノヴァは真顔。
「ずっとボスせん」
ゼルクが吹き出す。
「認識としては間違っていない」




