139話 知らない漢字
ゼルクが腹を抱える。
「加算まで制したか!」
フィリアが記録する。
「学習適応速度、異常値」
アルヴェリアは優しく頷いた。
『誇らしいぞ』
ノヴァは少し照れながら言う。
「……すうじ、よわい」
レナが笑い崩れる。
「勝った側のセリフじゃない!」
賢者グラン・テスタは杖を床に鳴らす。
かつん。
『見事だ、ノヴァ』
『力だけではなく、考え、答えに辿り着いた』
『お前は学びを恐れていただけだった』
ノヴァは首を傾げる。
「……でも、つかれた」
フィリアが即答。
「妥当」
賢者の背後に光の扉が現れる。
『約束通り、本気への道を授けよう』
ノヴァの目が輝く。
「ほんき!」
レナが青ざめる。
「忘れてなかった!!」
賢者は扉を指差す。
そこに書かれていた文字。
“次の教科:国語”
ノヴァの笑顔が消えた。
「……やだ」
光の扉に刻まれた “次の教科:国語” を見て、ノヴァは完全に停止していた。
「……やだ」
白金の翼までしょんぼり垂れている。
レナが肩を震わせる。
「見てられない顔してる……」
ゼルクは笑いをこらえている。
「ここまで露骨な拒否反応も珍しい」
賢者グラン・テスタは杖を鳴らした。
かつん。
厳かな声が響く。
『甘えるでない、ノヴァ』
ノヴァ、びくっ。
賢者は静かに続ける。
『まだ、計算をマスターしたとは言えぬ』
黒板が再び光る。
そこに文字が次々浮かぶ。
“引き算”
“割り算”
“二乗”
空気が凍る。
賢者は眼鏡をくいっと上げた。
『やらせてもよいのだぞ?』
沈黙。
ノヴァの顔色が変わる。
「……え」
レナが吹き出す。
「圧のかけ方が先生すぎる!」
ノヴァは一歩下がる。
「ひきざん……?」
「わる……?」
「にじょう……?」
最後の単語で完全に混乱した。
「に、にじょうって、なに」
フィリアが即答する。
「同じ数字を二回以上かける概念」
ノヴァ、後退。
「こわい」
ゼルクが腹を抱える。
「未知の魔法扱いだ!」
黒板に文字。
“5²=?”
賢者が説明する。
『5×5だ』
ノヴァの目が見開く。
「5が、5かいくる……?」
「つよい」
レナが笑い崩れる。
「敵の増援みたいに言うな!」
ノヴァはその場でぺたんと正座した。
そして深々と頭を下げる。
「こくご、やる」
全員、停止。
レナが目を見開く。
「えっ」
フィリアが淡々と言う。
「数学回避のため国語選択」
ゼルクが大笑いした。
「判断が早い!」
賢者は満足そうに頷く。
『賢明だ』
黒板の文字が変わる。
“第一問:この漢字を読め。森”
ノヴァ、顔を上げる。
「……もり!」
黒板が光る。
『正解』
ノヴァの翼がぴこっと立つ。
「かんたん!」
レナが肩をすくめる。
「適性あったわ……」
黒板の文字が変わる。
“鬱蒼”
ノヴァの笑顔が消えた。
さっきまで「かんたん!」と翼をぴこぴこさせていたノヴァは、ぴたりと停止した。
「……うーん」
腕を組む。
「うーん?」
レナが小声で応援する。
「がんばれ、ノヴァ……!」




