135話 ノヴァの決断
長い沈黙の後。
ノヴァはゆっくり顔を上げた。
拳を握る。
真剣な眼差し。
「……やる」
全員、驚く。
レナが目を見開く。
「えっ!?」
ノヴァは続けた。
「ほんき、だしたい」
賢者が満足そうに頷く。
『よろしい。では初日だ』
黒板に文字が浮かぶ。
“九九を言え”
ノヴァ、即座に後ろを向いた。
「やっぱ、かえる」
レナが崩れ落ちる。
「決断が3秒!!」
ノヴァは入口へ向かって全力で帰ろうとした。
だが石門は、ばたん、と閉じた。
逃走経路消失。
ノヴァ、停止。
ゆっくり振り向く。
「……ひどい」
レナが吹き出す。
「完全に追い込まれた!」
ノヴァはその場にぺたんと座り込む。
腕を組む。
ほっぺをふくらませる。
「やだ」
賢者グラン・テスタは静かに頷く。
『よくある反応だ』
ノヴァは床をごろごろ転がり始めた。
「やだやだ」
「べんきょう、きらい」
「たたかうの、いい」
フィリアが記録する。
「年相応行動、確認」
ゼルクは笑いすぎて壁にもたれた。
「最強存在の駄々とは貴重だな!」
ノヴァは立ち上がり、翼を広げる。
「なら、これこわす」
石門へ拳を向ける。
レナが叫ぶ。
「校舎破壊はダメ!!」
賢者は杖を鳴らした。
かつん。
瞬間、ノヴァの拳がふわっと止まる。
「……あれ?」
『授業中の私語・破壊行為は禁止だ』
ノヴァ、硬直。
「つよい」
ノヴァは床にうつ伏せになる。
「びょうき」
「きょうは、むり」
レナが笑い転げる。
「仮病まで覚えてる!」
賢者は脈も取らず即答。
『健康そのものだ』
「つかれた」
『二分しか起きておらぬ』
「ねむい」
『先ほど寝た』
完全論破。
ノヴァはアルヴェリアの後ろに隠れる。
「おかあさん……」
アルヴェリアは少しだけ困った顔。
『今回は助けぬ』
ノヴァ、衝撃。
「うそ」
ゼルクが腹を抱える。
「包囲網が完璧だ!」
賢者は黒板を消し、新しい文字を書く。
“勝てば授業免除”
ノヴァの耳がぴくっと動く。
「……なにに?」
『私にだ』
空気が変わる。
レナが息を呑む。
「先生、自信満々……」
フィリアが分析。
「教育型強者」
さっきまで転がっていたノヴァが、すっと立ち上がる。
目が輝く。
「それなら、やる」
賢者は微笑む。
『では第一問』
黒板に文字。
“7×8=?”
ノヴァ、再び床へ倒れた。
「むりぃ……」
レナが膝を叩いて笑う。
「戦うってそっち!?」
床にうつ伏せになっていたノヴァ。
黒板には大きく書かれている。
“7×8=?”
全員が見守る中、ノヴァはしばらく黙っていた。
指を一本、二本……と折り始める。
途中で足りなくなり、翼まで数え始める。
レナが小声で言う。
「その数え方でいける……?」
フィリアは無表情。
「未知数」
突然、ノヴァががばっと起き上がる。
目がきらっと光る。
「……わかった」
賢者グラン・テスタが頷く。
『答えてみよ』
ノヴァは胸を張り、誇らしげに言った。
「56」
沈黙。
次の瞬間。
黒板がまばゆく光った。
『正解』
どぉぉぉん!!
天井から紙吹雪。
鐘の音。
どこからか拍手。
レナが飛び上がる。
「できたぁぁぁ!!」
ゼルクが腹を抱える。
「ははは! 初勝利だ!」
フィリアが即記録。
「九九習得率、上昇」
アルヴェリアは優しく微笑む。
『よくやった』
ノヴァはきょとんとした後、少し照れくさそうに笑う。
「……できた」




