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132話 戦闘できず


「……にげまわってた」

「あのときが、なつかしい」


沈黙。

レナが瞬きをする。


「逃げ回ってた時?」


ノヴァはこくりと頷く。


「よわくて」

「おなかすいて」

「つかまったら、おわりで」

「ずっと、はしってた」


ゼルクの表情が少し変わる。


「そんな時代もあったのか」


フィリアも静かに聞いている。


「現戦力からは想像困難」


ノヴァは歩きながら続ける。


「くらいところ、ねて」

「へんなきのみ、たべて」

「つよいの、きたら……にげる」


少し考えて。


「でも、たのしかった」


レナが驚く。


「え、楽しかったの?」


ノヴァは頷く。


「いきてる、ってかんじ」


ノヴァは自分の手を見る。


「いまは、みんなすぐ、こわがる」

「すぐ、おわる」

「ちょっと、さみしい」


レナが苦笑する。


「それはノヴァが強すぎるのよ」


ゼルクも笑う。


「贅沢な悩みだ」


レナはノヴァの横に並ぶ。


「でもさ、今は逃げ回らなくていいじゃん」

「お腹すいても仲間がいるし、寝る場所もあるし」

「一人じゃない」


ノヴァは見上げる。

しばらく黙って。


「……うん」


小さく頷いた。

森の奥から、とてつもない咆哮。

ごぉぉぉぉぉぉぉん!!!

木々が揺れ、鳥が一斉に飛び立つ。

フィリアが即座に構える。


「大型反応、接近」


ゼルクが笑う。


「感傷に浸る時間は終わりらしい」


ノヴァの目が輝く。


「いい」


レナが頭を抱える。


「切り替え早いのよ!」


咆哮とともに、木々が左右へなぎ倒される。

現れたのは、森そのものの化身のような巨獣だった。

山ほどの体躯。

苔むした甲殻。

角は古木のように枝分かれし、背には小さな森が生えている。

踏み出すだけで地面が割れ、周囲の木々がひれ伏した。

樹海王ベヒモア・シルヴァルド。

レナが青ざめる。


「今度こそ本物のボス来た!!」


フィリアが分析する。


「周辺生態系の頂点」


ゼルクは笑みを浮かべる。


「ようやくだな」


ノヴァは一歩前へ出る。

巨獣を見上げる。

その目は少しわくわくしていた。


「……ほんき、だせるかな?」


レナが叫ぶ。


「その期待の仕方やめて!?」


アルヴェリアはため息混じりに微笑む。


『ほどほどにな』


開戦――のはずだった

樹海王が咆哮する。

森全体が揺れ、無数の根が地中から伸びる。

空には巨大な葉刃の嵐。

完全戦闘態勢。

ノヴァは拳を握る。

白金の光が指先に宿る。

ゼルクが低く笑う。


「来るぞ」


――どん。

小さな音だった。

誰も何が起きたか分からなかった。

風が遅れて吹く。

葉が舞う。

根が全部しゅんと地面へ戻る。

咆哮も止む。

沈黙。

レナが瞬きをする。


「……え?」


樹海王ベヒモア・シルヴァルドは、地面に正座していた。

巨大な前脚を膝の上に置き、背筋まで伸びている。

頭も深く下げていた。

完全降伏。

フィリアが淡々と言う。


「戦闘終了確認」


ゼルクが腹を抱える。


「一秒もかかっていない!」


ノヴァは元の場所に立っていた。

何も変わっていない。

服も乱れていない。

ただ、拳を軽く振っていた。


「……また、だめだった」


少し不満そう。


「何したのよ!!」


ノヴァは首を傾げる。


「ちょっと、あいさつ」

「つよく、こつんって」


レナが崩れ落ちる。


「“こつん”で森の王が座禅組んでるのよ!!」


巨大な王は震えながら言った。


『……あれ以上は、魂が折れる』

『我は王だが、無謀ではない……』


アルヴェリアが静かに頷く。


『賢明だ』


ノヴァは樹海王を見上げる。


「もう、おわり?」

『はい』

「……ほんき、まだむりか」


ゼルクが笑う。


「その日は来るのか?」


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