128話 勉強嫌いのノヴァ・森に行きたいな
その時。
少し離れた場所で砂を払っていたラメセス十三世が、ぽつりと言った。
『その前に……学校は?』
世界が止まった。
風が止む。
鳥が止む。
サンドバジリスの瞬きも止まる。
ノヴァの動きも止まった。
ゆっくり振り向く。
ノヴァが見せたのは、今までで一番嫌そうな顔だった。
眉が下がる。
口がへの字。
目がじとっ。
レナが震える。
「え、そんな顔できたの!?」
フィリアが記録する。
「最大級の拒否反応」
ゼルクは吹き出した。
「強敵発見だな」
ノヴァは首を横にぶんぶん振る。
「やだ」
さらに一歩下がる。
「やだやだ」
翼までばさばさしている。
「ぜったい、やだ」
ラメセス十三世が戸惑う。
『いや、基礎教養は大事で――』
ノヴァ、即答。
「きこえない」
耳をふさいだ。
アルヴェリアが苦笑する。
『そこまで嫌か』
ノヴァは真顔で言った。
「べんきょう、したくない」
沈黙。
レナが思わず笑う。
「理由がシンプル!」
ゼルクも肩を震わせる。
「正直でよろしい」
フィリアが分析。
「知識取得より実地行動を優先」
ラメセス十三世がまだ諦めずに言う。
『だが読み書きや計算は――』
ノヴァ、白金の翼を少し開く。
周囲の砂が浮いた。
「そのはなし、やめる?」
ラメセス十三世、即土下座。
『やめます!!』
レナが爆笑する。
「学校ワードで一番怒ってる!」
ゼルクが笑いながら言う。
「なら学校ではなく、旅しながら覚えればいい」
フィリアも頷く。
「実践型教育」
ノヴァは少し考えて。
「それなら、いい」
レナがため息をつく。
「結局旅は続くのね……」
「もり!」と次の目的地を宣言したノヴァ。
一方、レナはその場で力尽きていた。
「誰かこの子に長期休暇って概念教えて……」
朝日に照らされた砂丘に、悲痛な声が響く。
ゼルクは笑いをこらえ、フィリアは荷物確認を続け、女帝スコルピアはまだ礼儀正しく土下座中だった。
ノヴァはぴたりと止まる。
首を傾げる。
「……きゅうか?」
全員が振り向く。
レナが目を見開く。
「知らないの!?」
ノヴァは真顔で考え込む。
腕を組み、うーんと小さく唸る。
かなり真剣だった。
数秒後。
ノヴァはぱっと顔を上げる。
「わかった」
レナが少し期待する。
「お、理解した?」
ノヴァはこくりと頷き、当然のように言った。
「きゅうか、は」
「たたかうこと」
沈黙。
風だけが吹いた。
レナが崩れ落ちる。
「違うぅぅぅ!! 真逆ぅぅぅ!!」
ゼルクが腹を抱えて笑う。
「はははは! その発想はなかった!」
フィリアも珍しく口元を押さえる。
「価値観、戦闘寄り」
アルヴェリアは額に手を当てた。
『育成方針を見直すべきか……』
ノヴァは不思議そうだった。
「だって」
「たたかうと、たのしい」
「たのしいなら、やすみ」
レナが頭を抱える。
「理屈は通ってるのが困る!」
ゼルクが頷く。
「個人差というやつだ」
フィリアが静かに説明する。
「一般的な休暇とは、休むこと、遊ぶこと、穏やかに過ごすこと」
ノヴァは考える。
「……ねる?」
「おかし、たべる?」
「ごろごろ、する?」
レナが即答する。
「最高なのよそれが!」
アルヴェリアが優しく言う。
『一日、何も戦わず過ごしてみるか』
ノヴァは露骨に嫌そうな顔。
「えぇ……」
レナが指差す。
「その顔! 学校の時と同じ顔!」
しばらく悩んだ末、ノヴァは小さく頷いた。
「……じゃあ、きょうだけ」
レナが立ち上がって拳を上げる。
「やった! 休暇獲得!」
ゼルクが笑う。
「奇跡だな」
ノヴァは続けた。
「でも、もし」
「もりで、つよいの、いたら」
「それは、べつ」
レナが絶叫した。
「条件付き休暇ぁぁぁ!!」
フィリアがまとめる。
「完全休暇、失敗」
ノヴァは首を傾げながら呟いた。
「きゅうか……むずかしい」
砂丘に朝日が差し込み、今日こそ平和に休めるかと思われた。
……だが相手はノヴァだった。
ノヴァは少し考え込み、こくりと頷く。
「わかった」
レナが期待の目を向ける。
「おっ、ついに?」
ノヴァはまっすぐ皆を見る。
「なら、ひとりでいく」
一同、停止。
ノヴァは続ける。
「みんなは、やすんでて」
「ひとりで、もりいく」
沈黙。
風が吹く。
レナの顔が引きつった。
「ダメ!!」
レナが即答した。
反射だった。
ゼルクも同時に腕を組む。
「却下だ」
フィリアも淡々と。
「非推奨」
アルヴェリアは静かに微笑む。
『認めぬ』
四方向同時拒否。
ノヴァが瞬きをした。
「……なんで?」
レナがずいっと前に出る。
「なんでじゃないの!」
「あなた一人で行くと、森がなくなる可能性あるでしょ!」
ノヴァ、首を傾げる。
「なくさない」
フィリアが補足する。
「半分で済む可能性はある」
レナが叫ぶ。
「済んでない!」
ゼルクが肩をすくめる。
「それに、面白そうな場所へ一人で行かせる理由がない」
ノヴァが見る。
「……あそびたい?」
「当然だ」
ゼルクは即答した。
アルヴェリアはノヴァの頭に手を置く。
『お前は強い。だが、強い者ほど一人にしてはならぬ時もある』
ノヴァは少し黙る。
「……むずかしい」
『そういうものだ』
フィリアは紙を見せる。
そこには箇条書き。
『単独行動時の被害予測
・道に迷う確率
・面倒事吸引率
・学校から逃走する可能性継続中』
ノヴァ、最後の行を指さす。
「それ、けして」
「事実」
レナは腕を組み、ふっと笑った。
「……それにさ」
「休むって、『一人で置いていかれる』って意味じゃないのよ」
「みんなでダラダラするのも休みなの」
沈黙。
ノヴァは少し考えた。
「……みんなで?」
「そう。みんなで」
ノヴァは数秒悩み、こくりと頷いた。
「じゃあ、いっしょ」
レナがガッツポーズ。
「勝った!」
ゼルクが笑う。
「何にだ」
ノヴァは次の瞬間、目を輝かせて言った。
「みんなで、もりいこ!」
全員、固まる。
レナが膝から崩れ落ちる。
「会話が一周したぁぁぁ!!」
フィリアがまとめた。
「休暇交渉、決裂」
レナは両手をついて嘆く
「たまにはゆっくり寝たい……」
ノヴァはきょとんとした顔でレナを見る。
「……ねるのも、やすみ?」
レナは即答した。
「そうそう。いっぱい寝る、昼まで寝る、ごろごろする。最高の休みよ」
ノヴァは真剣な顔で考え込む。
ゼルクが嫌な予感を覚える。
「その顔は危険だな」
フィリアも頷く。
「高確率で妙な結論」




