126話 少しだけ本気を出そうとしたら………
ノヴァの背の翼が増えていく。
十二枚。
二十四枚。
その外側に透明な光翼。
さらに、足元に白金の輪が幾重にも展開された。
砂漠全体が昼のように明るくなる。
アルヴェリアが静かに息を呑む。
『……そこまでか』
スコルピア・レギナの九つの尾がわずかに震えた。
六つの眼に映るのは、先ほどまでの小さな少女ではない。
測れない何か。
『き、貴様……何者だ……』
ノヴァはいつもの調子で答える。
「ノヴァ」
レナが小声で言う。
「そこは変わらないんだ……」
ノヴァは女帝へ向けて手を伸ばす。
優しく。
「こわれないように、するから」
「ちゃんと、うけてね」
レナが絶叫した。
「その前置き怖すぎる!!」
二つの砂月が砕けた。
誰も何もしていない。
ただ、ノヴァが一歩前へ出ただけで。
ばきぃぃぃん!!
夜空に砂の雨が降り注ぐ。
女帝が息を呑む。
ゼルクが笑い直した。
「ははっ、いいな」
ノヴァは拳を胸の前で合わせ、少し嬉しそうに言った。
「じゃあ……ほんの、すこしだけ」
「いくね」
二つの砂月が砕け散り、夜空から砂の雨が降る。
その中心で。
白金の翼を広げたノヴァが、一歩前へ出た。
ただそれだけで、砂漠全体が震えていた。
第三段階へ至った砂海女帝スコルピア・レギナ。
先ほどまで絶対王者の威厳を放っていた巨体は――
完全に固まっていた。
理解してしまった
六つの眼が、ノヴァを見る。
そこにいたのは小さな少女。
なのに。
本能が叫んでいた。
勝てない。
いや。
触れてはいけない。
女帝の尾九本が一斉にしゅん……と下がる。
レナが小声で言う。
「え、しょんぼりした?」
フィリアが分析する。
「戦意喪失」
次の瞬間。
山のような巨体が、ゆっくり前脚を折った。
ずしん。
さらに頭を下げる。
ずどん。
そして――
完璧な土下座。
砂丘がへこむほど深い。
レナ、絶叫。
「でっっっかい土下座ぁぁぁ!!」
ゼルクが腹を抱える。
「ははははは!! 傑作だ!」
サンドバジリスは感動して泣いた。
『女帝様が……土下座を……!』
スコルピア・レギナの威厳ある声が震える。
『待て!! 話し合おう!!』
『我が悪かった!! 起こされて少し機嫌が悪かっただけなのだ!!』
『宝もやる! 領地もやる! 砂漠の三割やる!』
レナが突っ込む。
「三割って何!?」
女帝は必死だった。
『五割でもよい!!』
ノヴァは拳を握ったまま止まる。
きょとん。
「……なんで?」
女帝は顔を上げず叫ぶ。
『本能だ!!』
『今の貴様を相手にしたら、我の甲殻どころか人生観まで割れる!!』
ゼルクが吹き出す。
「正しい判断だ」




