122話 ノヴァの煽り
ノヴァは一歩前へ出る。
「ねてた?」
女帝は紅い眼で見下ろす。
『そうだ』
「ごめん」
全員、停止。
ゼルクが目を瞬く。
「あやまった」
フィリアも珍しく驚く。
「希少現象」
女帝は鼻を鳴らす。
『謝罪で済むなら砂漠に争いはない』
巨大な尾が持ち上がる。
毒針の先端に紫電。
周囲の砂が溶け、ガラス化していく。
レナが叫ぶ。
「やっぱ戦うんじゃん!!」
ノヴァは少し嬉しそうだった。
「いい」
毒針が落ちる。
隕石のような速度。
ノヴァはその場で、片手で受け止めた。
ずどぉぉぉん!!
衝撃で周囲の砂丘が吹き飛ぶ。
だがノヴァは微動だにしない。
女帝の六つの眼が見開かれる。
『……小さいくせに』
ノヴァ、真顔。
「よく、いわれる」
レナが吹き出す。
女帝はゆっくり尾を戻す。
今度は両鋏を構えた。
空気が重くなる。
サンドバジリスが震える。
『やばい……本気の構えだ……!』
ゼルクが笑う。
「面白くなってきた」
ノヴァは拳を握る。
「たのしそう」
女帝の巨体が消えた。
砂漠全域が揺れる。
レナが絶叫する。
「速いぃぃぃ!!」
砂海女帝スコルピア・レギナ。
山のような巨体が、音もなく消えた。
次の瞬間。
左右から鋏撃。
上空から毒針。
足元から砂柱。
三方向同時攻撃。
レナが叫ぶ。
「初手から殺意高い!!」
ゼルクが笑う。
「いい動きだ」
フィリアは防壁を展開。
「巻き込み注意」
だがノヴァは慌てなかった。
右の鋏を左手で止める。
左の鋏を右手で止める。
毒針は頭を少し傾けて回避。
足元の砂柱だけ、ぴょんと跳んで避けた。
どごぉぉん!!
攻撃同士がぶつかり、女帝自身が少しよろめく。
女帝の六つの眼が細くなる。
『……ほう』
ノヴァは鋏を掴んだまま、真顔で言った。
「だいじょうぶ」
「てかげん、してあげる」
沈黙。
レナが両手で顔を覆う。
「煽り性能高すぎる……!」
ゼルクは腹を抱えて笑った。
「最高だ」
フィリアが記録する。
「対話能力:独特」
ノヴァはさらに続ける。
「だから」
鋏を離し、少し後ろへ下がる。
拳をくいっと曲げて挑発する。
「ほんきで、おいで」
空気が凍った。
砂嵐すら止まる。
サンドバジリスが青ざめる。
『言っちゃったぁぁ!!』
スコルピア・レギナの全身が黒金に発光する。
尾が三本に分裂。
鋏が倍化。
脚部から雷砂が噴き出す。
六つの眼が紅く燃えた。
『小娘ぇぇぇぇ!!』
咆哮だけで砂丘が消し飛ぶ。
レナが伏せる。
「怒らせたぁぁ!!」
アルヴェリアは感心したように呟く。
『珍しく上手い挑発だ』




