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フェンリル転生物語  作者: 隣の鈴木君
悪意を滅するために
12/19

悪意との戦闘①

セレスの頬から落ちた血が、石畳に赤い点を作った。

彼はその血を指でなぞり、初めて本気の苛立ちを見せた。


「……なるほど。僕にも感情があるんだね」


ノヴァは答えない。

南区画。

レナが戦っている。

街のあちこちで人が逃げ惑っている。

黒い腕が水路から溢れ、建物を壊し、人を攫おうとしている。

このままでは間に合わない。

一体ずつ倒していては遅い。

ノヴァは息を吸った。

肺の奥まで。

骨の芯まで。

魔力の底まで。

体の奥に眠る、神話の力へ触れる。

危険だと本能が告げる。

今の幼体の体で使えば、反動は大きい。




でも――やる。




ノヴァは空へ顔を向けた。

そして、咆哮した。

小さな体から放たれた声は、ただの音ではなかった。

世界そのものを震わせる、原初の遠吠え。

次の瞬間。

空気が止まった。

風が凍る。

雲が白く裂ける。

街路の水たまりが一瞬で氷結し、噴水は途中の形のまま凍りつく。

屋根瓦に霜が走り、窓ガラスは白く曇る。

石畳の隙間から氷柱が伸びる。

黒い腕。黒い泥。影の獣。

それらすべてが、動きを止めた。

街全体が、冬になった。

ハルネの人々はその場で立ち尽くす。

市場の商人。逃げていた母親。剣を構えていた衛兵。

誰もが見上げる。

晴れた空から、雪が降っていた。

季節外れの、静かな雪。




セレスの足元まで氷が這い上がる。

彼はとっさに影で身を包むが、黒い防壁ごと凍りついた。


「……街全域を、範囲凍結……?」


その余裕ある笑みが、ついに崩れる。


「幼体で、これを?」


ノヴァの瞳は冷たく冴えていた。

小さいから弱い。

幼いから未熟。

誰もがそう思う。

だがフェンリルは違う。

成長で得る強さもある。

だが生まれながらに持つ“格”がある。

今、街はその一端を見た。



南区画

同じ頃。

レナはミレアの放った影蛇に追い詰められていた。

剣は欠け、息も荒い。

ミレアは笑う。


「お姉さん、そろそろ終わり――」


ぱき。

足元の影蛇が凍った。


「え?」


次の瞬間、周囲の影がすべて氷像のように固まり、砕け散る。

レナは顔を上げた。

街全体に雪。

そして胸の奥まで届く、あの咆哮の余韻。

レナは笑った。


「……派手にやったわね、ノヴァ」




北区画。

ノヴァの足がふらついた。

鼻先から白い息が漏れる。

視界が少し揺れる。

使いすぎた。

小さな体に対して、力が大きすぎる。

それでも倒れない。

まだセレスがいる。

まだ終わっていない。

セレスは凍りついた影を砕きながら、静かに笑った。

だがその笑みには先ほどまでの余裕がない。


「……いいよ、ノヴァ」


赤い瞳が妖しく光る。


「ますます欲しくなった」


ノヴァは心の底から思った。

――本当に帰ってほしい。

そして最後の力を振り絞り、地を蹴った。

白い閃光が、凍てつく街を駆ける。




白い閃光となったノヴァは、北区画の裏通りを駆け抜けた。

石畳を蹴るたび、霜が散る。

凍りついた路地を一直線に走り、屋根へ跳び、塔を蹴り、中央広場へ向かう。

ここで戦っていてはだめだ。

北区画は狭い。

建物が多く、視界も悪い。

何より――レナと街の人たちが散っている。

守るなら、一か所に集めた方がいい。

セレスも追ってくる。

背後で影がうねり、家々の壁を食い破りながら迫る気配。

ノヴァは速度を上げた。


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