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VSアビサロス


アビサロスが闇を放つ寸前。

ノヴァが踏み込んだ。

その動きは、誰にも見えなかった。

ただ。

海全体に一本の白い線が走った。

次の瞬間。

ノヴァはすでにアビサロスの額の前にいた。

小さな拳が、ちょこんと触れる。

こつ。

静寂。

一秒。

二秒。

三秒。

アビサロスの赤い瞳が白目になった。

巨体がぴしぴしと硬直し、ゆっくり後ろへ倒れていく。

どごぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!

世界が壊れるレベルの衝撃。

だが不思議と周囲への被害はない。

倒れたアビサロスだけが、綺麗に気絶していた。

フィリアが呟く。


「衝撃の指向性制御……完璧」


ゼルクは笑うしかなかった。


「化け物だ」


ノヴァは着地する。

十二枚の翼がふっと消え、いつもの姿へ戻る。

そして倒れた深淵皇を見上げ、首を傾げた。


「おわり?」


沈黙。

レナが崩れ落ちる。


「終わったよ!!」


海竜が涙を流す。


『数千年の恐怖が一撃で……』


オクトラーナは感極まり歌い出した。

♪ 強すぎて〜 話にならない〜♪


ノヴァは少し不満そうだった。


「もっと、つよいかと」


ゼルクが肩をすくめる。


「相手もそう思っていただろう」


フィリアが記録する。


「深淵皇アビサロス、評価:期待外れ」


レナが笑いながら止める。


「記録の仕方ひどい!」


アビサロスはその後、目覚めた瞬間ノヴァを見るなり土下座した。

以後、深海の門番として真面目に勤務。

海賊は消え。

海流は安定。

ライブは定時終了。

小クジラは踊る。

海底神殿ネレイアは世界最大級の観光地となった。


海底神殿ネレイア。

深淵皇アビサロスまで門番になり、海はかつてない平和を迎えていた。

ライブは時間厳守。

海賊は就職支援済み。

小クジラは毎日二回公演。

そんな中。

ノヴァがジュースを飲み終え、ぽつりと言った。


「……つぎ、やま」


レナは床に倒れた。


「また移動ぉぉ……」


ゼルクは腕を組む。


「海よりは静かだろう」


フィリアは地図を広げた。


「候補あり」


世界北方。

天空へ突き出す大山脈。

その中心にそびえるのは――

天柱山グランディア。

一年中雪に覆われ、雲を貫く神峰。

古代の龍が眠る。

神獣が住む。

登頂者ゼロ。

レナの目が少し輝く。


「それっぽい冒険来た!」


アルヴェリアは頷く。


『山なら我も得意だ』


ノヴァもこくり。


「のぼる」


数日後。

一行は山麓へ到着した。

巨大な針葉樹林。

澄んだ空気。

遠くで滝の音。

静かだった。

本当に静かだった。

レナが感動する。


「……何も暴れてない……」


ゼルクも深く息を吸う。


「素晴らしい」


フィリアが耳を澄ます。


「歌声なし」


全員がうなずいた。


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