海賊王本船
静寂。
海面には壊れていないが完全に逃走した海賊艦隊の泡だけが残った。
海竜が震える声で聞く。
『……今、何秒だ?』
フィリアが即答する。
「三秒未満」
ゼルクが笑う。
「瞬殺だな」
魚群が歓声。
イルカがジャンプ。
クラゲ照明が点滅。
オクトラーナがマイクを掲げる。
『本日の特別演目! 英雄ノヴァ・三秒伝説!』
小クジラもぴこぴこ踊る。
ノヴァは戻ってきて、貝殻ソファに座る。
「……やっぱり、こっちがらく」
全員、深く同意した。
「わかる」
だが次の瞬間
海賊旗艦が逃げた方向から、さらに巨大な影が現れる。
海そのものが持ち上がる。
海竜の顔が青ざめた。
『まさか……海賊王の本船!?』
ノヴァ、立ち上がる。
少し嬉しそうに。
「もっと、らく?」
逃走した海賊艦隊の彼方。
海そのものが盛り上がり、巨大な黒影がゆっくり近づいてきた。
波が左右に割れる。
魚群は一斉退避。
クラゲ照明は消灯。
小クジラですら踊りを止めた。
海竜が震える。
『来た……深海最悪の男……!』
レナが剣を握る。
「今度こそ本命ね」
ノヴァは少し嬉しそうだった。
「もっと、らく?」
姿を現したのは、常識外れの巨艦だった。
山のような船体。
黒鉄の装甲。
百門以上の砲台。
帆には巨大な髑髏。
船首像は牙を剥いた海蛇。
その甲板に、一人の男が立っていた。
長い黒コート。
鋭い眼光。
腕には錨の鎖。
海賊王グラン・マルディオ。
ゼルクが低く言う。
「強いな」
フィリアも頷く。
「高密度魔力反応あり」
海賊王の声が海を震わせる。
『小娘ぇ……我が部下を散らしたそうだな』
『面白い。ならば我自ら相手を――』
ノヴァ、途中で前へ出る。
「ながい」
レナが吹き出した。
「またそれ!」
グラン・マルディオが怒号を上げる。
『無礼者ォ!!』
鎖を振るう。
海そのものを裂く巨大な一撃。
神殿ごと砕けそうな破壊力。
海竜が叫ぶ。
『避けろ!!』
だがノヴァは動かない。
ただ、片手を上げた。
ぱし。
鎖、停止。
全員沈黙。
グラン・マルディオの顔が引きつる。
全力で引く。
動かない。
ノヴァが鎖を少し見る。
「これ、じゃま」
軽く引っ張る。
海賊王ごと船首から空中へ放り出された。
レナが叫ぶ。
「雑!!」
宙に浮いた海賊王。
その背後にノヴァ。
いつ移動したのか誰も見えなかった。
ノヴァは拳を構える。
「おわり」
こつん。
次の瞬間。
巨大旗艦が縦に一回転し、百門砲台が一斉に自分の帆へ撃ち込みながら海の彼方へ吹き飛んだ。
どごぉぉぉぉん!!
水平線の向こうで星になった。
ゼルクが呟く。
「やはり三秒いらなかったな」
海面にぽちゃんと落ちたグラン・マルディオ。
気絶。
しかも近くに小クジラが寄ってきて、周りをくるくる踊っている。
フィリアが記録する。
「勝負時間、一秒台推定」
魚群の大歓声。
イルカ乱舞。
クラゲ照明再点灯。
オクトラーナが歌い出す。
♪ 勝者は語らず〜 一撃で終わらす〜♪
レナが笑い崩れる。
「即興曲までできてる!」




