巨大戦艦
光の中でバレノンの輪郭が揺れる。
島のような体。
山のような背。
津波を起こす尾びれ。
それらが、みるみる小さくなっていく。
どんどん。
ぎゅんぎゅん。
するする。
海竜が目を見開く。
『な……何をしている!?』
オクトラーナは触手を震わせた。
『サイズ調整ライブ演出!?』
数秒後。
光が消える。
そこにいたのは――
手のひらサイズの小さなクジラだった。
青白い模様はそのまま。
尾びれもそのまま。
でもちっちゃい。
しかもまだ踊っている。
左右。
左右。
ぴこぴこ。
沈黙。
レナが膝から崩れた。
「かわいい……」
ノヴァは小さなクジラを両手で受け止める。
「おおきいと、こわれる」
「ちいさいと、へいわ」
フィリアが即座に評価する。
「合理的解決」
ゼルクが苦笑した。
「力でねじ伏せるより恐ろしい」
アルヴェリアは誇らしげに頷く。
『見事だ』
小さくなったクジラは、最初こそ戸惑っていた。
だが。
くるん。
ぴょこ。
しゅるん。
以前より軽快に踊り始めた。
海流は乱れない。
珊瑚も倒れない。
魚も吹き飛ばない。
むしろ周囲の魚たちが一緒に踊り出した。
海竜が呆然とする。
『……問題が消えた』
オクトラーナが叫ぶ。
『これは共演の流れね!!』
即座に歌い始める。
♪ 深海のリズムに身を任せ〜♪
小クジラが合いの手のように踊る。
魚群はバックダンサー。
クラゲは照明。
カニは打楽器。
レナが笑い転げる。
「完成度高すぎる!」
数日後。
海底神殿ネレイアはさらに大人気となった。
昼:オクトラーナ単独公演。
夜:小クジラ・ダンスショー。
週末:スペシャル共演ライブ。
海竜は警備と整理券配布で忙しくなった。
『なぜこうなった……』
ノヴァは貝殻ソファで頷く。
「いい」
白ぽむたちは小クジラの周りで回っている。
ゼルクが呟く。
「また敵が職を得た」
フィリアも頷く。
「恒例行事」
その時。
神殿上空の海面が真っ黒に染まった。
巨大な影。
さらにその向こうに、無数の影。
海竜の顔色が変わる。
『まさか……海賊艦隊!?』
レナが立ち上がる。
「今度は普通の敵!?」
ノヴァの目が輝いた。
「いい」
上空の海面が黒く染まる。
無数の影。
帆船型潜航艦。
鉄甲船。
巨大クラゲを曳く輸送船。
海賊旗が揺れていた。
先頭艦から拡声貝殻の声が響く。
『聞けぇ! 我ら深海黒牙団――』
そこまでだった。
ノヴァが一歩前へ出る。
白金の翼がふわりと開く。
レナが気づく。
「待って、まだ名乗って――」
消えた。
ノヴァの姿がその場から消失。
ゼルクが目を細める。
「速い」
次の瞬間。
海面近くの先頭艦。
船長が口を開いたまま固まっていた。
その額に、ちょこんとノヴァの手刀。
こつ。
どごぉぉぉん!!
艦ごと後方へ吹き飛び、他の三隻を巻き込みながら海面の彼方へ消えた。
レナが叫ぶ。
「加減してそれ!?」
残りの艦隊が慌てて砲撃準備。
だが遅い。
ぴしゅ。
ぴしゅ。
ぴしゅ。
白い閃光が艦隊の間を走るたび、船がくるくる回って沈まず退場していく。
帆が結ばれ、舵が逆向きになり、錨が自分の甲板に刺さる。
フィリアが観察する。
「破壊ではなく無力化」
ゼルクが頷く。
「妙に器用だ」
最後に残った巨大旗艦。
金の装飾。
三層砲台。
船首には鮫の像。
船長が震えながら叫ぶ。
『ま、待て! 交渉を――』
ノヴァ、船首に着地。
じっと見る。
「わるいこと、した?」
『……しました』
「ひとから、とった?」
『……取りました』
「かえす?」
『返します!!』
ノヴァ、こくり。
船首を指でつつく。
こつ。
巨大旗艦はきれいに180度回転し、全速力で逃げ出した。
レナが腹を抱える。
「物理的説得!」




