海竜の悩み事
海竜は浜辺まで近づき、深い声で言った。
『陸の英雄よ……助けてほしい』
全員、納得した。
ゼルクが空を見る。
「やはりか」
ノヴァは前へ出る。
「なに?」
海竜は困った顔で答えた。
『海底神殿ネレイアに、“歌うタコ”が住み着いてしまった』
沈黙。
レナが崩れ落ちる。
「また歌うの!?」
波音の中、巨大な海竜が神妙な顔で告げた。
『海底神殿ネレイアに、“歌うタコ”が住み着いてしまった』
沈黙。
レナは砂浜に膝をつく。
「また歌う系……」
ゼルクは額を押さえた。
「この世界、歌う物が多すぎる」
フィリアは記録帳に追記する。
「分類:音楽系トラブル」
アルヴェリアは首を傾げる。
『タコは歌うものなのか?』
そんな中、ノヴァだけは真剣だった。
海竜の前まで歩き、じっと見上げる。
そして一言。
「歌……うまい?」
全員、固まる。
レナが叫ぶ。
「そこ確認するの!?」
フィリアも少し目を見開く。
「着眼点が独特」
ゼルクは吹き出した。
「重要ではある」
海竜は少し考え込んだ。
『……うまい』
さらに続ける。
『非常にうまい』
『声量もあり、音程も完璧だ』
レナが頭を抱える。
「じゃあなんで困ってるのよ!」
海竜、苦しげに叫ぶ。
『夜通し歌うのだ!!』
『眠れぬ!!』
『しかもアンコールを求めてくる!!』
全員納得した。
海竜は訴える。
『神殿に近づく魚たちは全員ファンになり帰ってこぬ!』
『イルカたちは毎晩ペンライトのように跳ねる!』
『クラゲが照明係になっておる!』
フィリアが淡々と言う。
「完成度が高いライブ」
ゼルクがうなる。
「被害規模も高い」
ノヴァは少し考える。
海を見る。
空を見る。
そして真顔で言った。
「……ききたい」
レナがずっこけた。
「そっち!?」
アルヴェリアは苦笑する。
『好奇心旺盛だな……』
ノヴァはこくり。
「うまいなら、きく」
「それで、きめる」
フィリアが頷く。
「合理的審査方式」
海竜は深く頭を下げた。
『では背に乗れ。案内しよう』
一行は海竜の背へ乗り込む。
ノヴァは先頭。
レナは少し不安。
ゼルクは水しぶきを嫌がり。
アルヴェリアは浮く準備をしている。
海竜が潜る。
ざぶん!
青い世界へ。
魚群がきらめき、珊瑚が揺れる。
ノヴァの目がまた輝く。
「……きれい」
深海へ近づくにつれ、遠くから歌声が響いてきた。
澄んだ低音。
伸びやかな高音。
妙に情感たっぷり。
♪ 海よ〜 我が恋心を運べ〜♪
レナが驚く。
「……え、ほんとにうまい」
ゼルクも認める。
「腹立たしいが事実だ」
フィリアが分析する。
「かなりの実力者」




