空島亀ガメリア
レナは荷物をまとめる。
「温泉で癒やされて、王都で削られたわ……」
ゼルクは翼を整える。
「次は静かな土地を希望する」
フィリアは地図を広げた。
「候補あり」
森の学園都市エルミナ
砂漠の商都ザラーム
天空亀ガメリア
レナが即答。
「誰も住まぬ天空島!」
全員頷く。
城門前。
王都の人々が集まり、旅立つ一行を見送る。
「ありがとうノヴァ様!」
「また来てー!」
「ゼリーどうしよう!」
ミミクロンが旗を振る。
「観光大使として待っているぞォ!」
メロディアンは歌いながら涙していた。
♪ 別れはいつも突然さ〜♪
レナが叫ぶ。
「長い!」
ノヴァは空へ飛び上がる。
仲間たちも続く。
アルヴェリアは大地を駆け、ゼルクは風を裂く。
王都が遠ざかっていく。
その時、城壁の向こうから半透明の巨大なゼリーがぬるんと現れた。
人々が悲鳴を上げる。
ノヴァは振り返らず言った。
「がんばって」
レナが吹き出した。
「見捨てた!」
新天地へ
雲の上。
爽やかな風。
騒音なし。
報告なし。
走る家具なし。
ノヴァは深く息を吸った。
「へいわ……」
フィリアが小さく訂正する。
「まだ分からない」
王都を離れた一行は、久しぶりの静けさに包まれていた。
風は穏やか。
空は青い。
誰も追ってこない。
レナは両手を広げる。
「最高……やっとトラブルゼロ……」
その言葉の途中だった。
影。
空全体を覆うほどの巨大な影が、ゆっくりと横切った。
レナは言う
「撤回します」
それは亀だった。
ただし島サイズ。
甲羅には森。
湖。
小さな山。
四本足で空を泳ぎ、尾を振るたび雲が散る。
頭には苔むした角。
目はつぶら。
ゼルクが絶句する。
「……生物なのか、地形なのか」
フィリアは観察していた。
「どちらも」
ノヴァの目だけが輝く。
「おおきい」
巨大亀は一行に気づくと、ゆっくり顔を寄せてきた。
その鼻息だけで暴風。
レナがしがみつく。
「近い近い近い!」
アルヴェリアが翼を広げて守る。
『警戒しろ』
だが亀は――
ぺろ。
長い舌でノヴァを舐めた。
全員沈黙。
ノヴァ、べたべた。
「……ぬるぬる」
フィリアが即分析する。
「敵意なし」
ゼルクが頷く。
「ただの好奇心だな」
レナが笑う。
「よかった、食べられなくて」
亀は嬉しそうに鳴いた。
ぼぉぉぉぉん。
低い声が空へ響く。
その振動で雲が円形に割れた。
ノヴァは亀の鼻先をぽんと叩く。
「のる」
そのまま飛び移る。
レナが叫ぶ。
「待って! 置いてかないで!」
全員続いて甲羅へ着地した。
そこには本当に小さな世界があった。
草原。
川。
森。
花畑。
白ぽむたちは即座に転がり回る。
「ぽむー!」
森の奥から、小さな人影たちが現れた。
背丈は膝ほど。
葉っぱの服。
羽虫のような透明な羽。
レナが目を丸くする。
「え、住んでる!?」
小人たちは一斉にひざまずいた。
「おお、旅の守護者さま!」
「ついに来てくださった!」
ノヴァが周囲を見る。
「だれ?」
フィリアが補足する。
「多分、あなた」
小人族の長老が前へ出る。
「我らは空島亀ガメリアの民」
「どうか助けてください」
ゼルクがため息をつく。
「やはりそうなるか」
長老は空の一点を指差した。
遠くの雲の中。
黒い渦が回っている。
「最近、“空喰い鳥”が現れ、亀さまの甲羅を削っていくのです!」
レナが顔をしかめる。
「空を食べる鳥の次は甲羅食い?」
ノヴァは少し考えた。
巨大亀の甲羅を撫でる。
亀は気持ちよさそうに目を細めた。
「このこ、いいこ」
そして黒い渦を見る。
「まもる」
歓声。
小人たちは飛び跳ねた。
「救世主さま!」
アルヴェリアは娘を見つめ、静かに笑う。
『また拾ったな、面倒ごとを』
ノヴァは首を傾げた。
「おおきい、すき」
その時。
雲を裂いて、巨大な影が降下してきた。
翼長は城ほど。
嘴は槍のように鋭い。
羽ばたくたび空気が削れる。
赤い眼がノヴァを捉える。
長老が叫んだ。
「空喰い鳥グラヴィスだぁぁ!」
レナが剣を抜く。
「はい来た!」
ノヴァは前へ出る。
小さく笑って。
「とり」
雲を裂き現れた巨鳥グラヴィス。
翼長は城ほど。
嘴は槍。
赤い眼には獰猛な知性。
その一羽が羽ばたくだけで、甲羅の森がなぎ倒される。
小人族は悲鳴を上げ、白ぽむたちは葉陰へ転がり込んだ。
レナが剣を抜く。
「今度は鳥!」
ゼルクが翼を広げる。
「空戦なら任せろ」
だが。
ノヴァは一歩前へ出た。
じっとグラヴィスを見上げる。
そして懐かしむように、ぽつりと呟いた。
「……ひさしぶり」
フィリアが首を傾げる。
「何が?」
ノヴァは手を空へ向けた。
「メテオ・ノヴァ」
かつての奥義
レナが目を見開く。
「それって昔、フェンリルだった頃の……!」
アルヴェリアも息を呑む。
『あの破壊技か……!』
ゼルクが顔をしかめる。
「以前は反動で倒れていたはずだ」
ノヴァはこくり。
「いま、だいじょうぶ」
白金の翼が広がる。
空気が震える。
ノヴァの周囲に、無数の光粒が集まり始める。
赤。
青。
金。
白。
それらは空の高みへ吸い込まれ、一つの巨大な光球となった。
昼なのに、星が生まれたようだった。
小人族がひれ伏す。
「天変……!」
フィリアが静かに言う。
「圧縮された高密度魔力塊」
レナが叫ぶ。
「簡単に言うと!?」
「やばい」
グラヴィスの突撃
危険を察したグラヴィスが急降下する。
音速を超える嘴。
一直線にノヴァへ迫る。
アルヴェリアが叫ぶ。
『ノヴァ!』
ノヴァは動かない。
ただ指を鳴らした。
ぱちん。
メテオ・ノヴァ
空の星が落ちた。
巨大光球が、彗星のような尾を引いて降下。
グラヴィスの頭上へ直撃する。
どぉぉぉぉぉぉぉん!!!!
轟音。
閃光。
衝撃波で雲海が千切れ、空に巨大な円が開く。
ガメリアの甲羅の湖が波立ち、森の木々が揺れた。
レナが伏せながら叫ぶ。
「派手ぇぇぇ!!」
煙が晴れる。
そこには――
黒焦げで目を回し、羽毛がちりちりになったグラヴィスが、くるくる回りながら落下していた。
嘴には小さな焦げ跡。
命に別状なし。
ただし完全敗北。
小人族が歓声を上げる。
「勝ったぁぁ!」
「守護者さまだ!」
レナが慌ててノヴァを見る。
「大丈夫!?」
以前なら大技の反動で倒れていた。
だが今回は――
ノヴァ、平然。
むしろ少し得意げ。
「へいき」
その場でくるっと一回転した。
ゼルクが苦笑する。
「成長しすぎだ」
アルヴェリアの瞳は誇らしかった。
『我が子よ……』
落下したグラヴィスは甲羅の草原に刺さっていた。
ノヴァが近づく。
「もう、けずらない?」
グラヴィスはぷるぷる震えながら首を縦に振る。
「……ぴぃ」
「よし」
レナが笑う。
「鳥になってるじゃない」
その後、グラヴィスは処罰されず、
“空島巡回警備隊長”に任命された。
空賊や嵐の監視担当。
小人族は大喜び。
フィリアがまとめる。
「敵対勢力の再雇用率が高い」
ゼルクが頷く。
「この一行らしい」




