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ノヴァ、音を上げる

その時、兵士が青ざめて駆け込む。


「た、大変です!」

「厨房で“走るフライパン”が――」


全員同時に叫んだ。


「もう自分でなんとかして!!」


祭りの熱気がまだ残る城門前。

礼砲隊サウンドキャノンズは誇らしげに整列し、民衆は大盛り上がり。

だが兵士から告げられた新たな報告。

“走るフライパン、厨房で暴走中”

レナはその場で笑い崩れた。


「次から次へと何なのこの城!」


ゼルクは腕を組んだまま天を仰ぐ。


「呪われているのではないか」


フィリアは真顔だった。


「可能性はある」


王女エリシアは青ざめている。


「ち、違います! たぶん!」


その時。

ノヴァがふらりと前へ出た。

皆が見る。

いつもなら静かに対処する。

いつもなら短く指示する。

だが今回は違った。

小さな肩が落ちる。

翼もしょんぼり垂れる。

そして、心の底から絞り出すように言った。


「もうヤダ」


沈黙。

広場中が止まった。

レナが目を見開く。


「ノヴァが……弱音を……!?」


フィリアも珍しく動揺する。


「歴史的瞬間」


ゼルクは低くうなる。


「王都、ついに英雄を折ったか」


アルヴェリアは娘に駆け寄る。


『ノヴァ!? 大丈夫か!?』


ノヴァはうるっとした目で母を見る。


「はこ、よろい、いす、たいほう、ふらいぱん……」

「つかれた……」


エリシアが深々と頭を下げた。


「申し訳ありません!!」


大臣たちも続く。


「我らの管理不足です!!」


礼砲隊まで頭を下げた。


「すみませんでした!」


レナが吹き出す。


「大砲まで謝ってる」


アルヴェリアはそっと翼でノヴァを包む。


『休め』

『今度は我らがやる』


ノヴァは鼻をすすりながら聞く。


「……いいの?」

『当然だ』


ゼルクが前へ出る。


「たまには大人に任せろ」


フィリアも頷く。


「同意」


レナは拳を握る。


「今日はノヴァ完全オフ!」


その日の王都は珍しい光景となった。

ノヴァは城の庭園で、白ぽむたちと昼寝。

ふかふかの芝生。

おやつ山盛り。

お茶付き。

一方その頃――

レナは厨房で走るフライパンと格闘。


「止まりなさい!」


ゼルクは喧嘩する鍋の仲裁。


「落ち着け!」


フィリアは歌う包丁の音程修正。


「そこ半音高い」


アルヴェリアは暴れる食器棚を片手で抑えていた。


『王都とは過酷な地だな……』


庭園。

ノヴァが目を覚ます。

空は茜色。

エリシアが恐る恐る近づく。


「……少しは休めましたか?」


ノヴァはこくり。


「うん」


少し考えて、続ける。


「でも」


全員が身構える。


「つぎ、たのしいのがいい」


レナが笑った。


「それは私も同意!」


その瞬間。

また兵士が走ってきた。

全員が身構える。


「大変です!」


レナが叫ぶ。


「今度は何!?」


兵士は息を切らしながら答えた。


「城下町で“空飛ぶケーキ”が配られています!」


沈黙。

ノヴァの目が輝いた。


「……たのしい」


夕焼けの城下町。

“空飛ぶケーキ配布中”という報告を受け、一行は全力で現場へ向かった。

レナは走りながら叫ぶ。


「今度は被害じゃなくて配布!?」


フィリアは冷静だった。


「珍しく善性の可能性」


ゼルクは眉をひそめる。


「まずは食えるか確認だ」


ノヴァは先頭を飛んでいた。


「けーき!」


中央商店街。

人だかりの上空を、白い物体がふわふわ飛んでいる。

丸い。

ふわふわ。

甘い香り。

そして上には苺。

レナが指差す。


「ほんとにケーキだ!」


それも一つではない。

十個。

二十個。

三十個。

ショートケーキ、チョコケーキ、モンブラン、チーズケーキ。

空いっぱいにケーキが舞っていた。

子どもたちは大歓声。


「すごーい!」

「取れたー!」


一つのショートケーキがノヴァの前へ近づく。

ふわっ。

そして小さな声で言った。


「どうぞ」


全員が止まる。

レナが二度見する。


「喋った」


フィリアは即分析。


「意思疎通可能菓子類」


ゼルクがため息。


「またか」


屋根の上から声が響いた。


「はーっはっは!」


そこに立っていたのは、真っ白なコック帽にマント姿の男。

片手に泡立て器。

片手に絞り袋。


「我が名はスイーツ卿パルフェーヌ!」

「世界に甘さを届ける者!」


レナが頭を抱える。


「また濃いの来た……」


パルフェーヌは胸を張った。


「王都に疲れた顔が多いと聞き、元気づけに参上した!」

「空飛ぶ幸せを受け取るがよい!」


実際、街の人々は笑顔だった。

兵士も。

商人も。

子どもも。

エリシアが感動している。


「いい人では……?」


その時。

遠くから悲鳴。


「助けてぇぇ!」


巨大な三段ケーキが暴走し、荷車を追いかけていた。

別方向ではチョコフォンデュが噴水から溢れている。

フィリアが即訂正。


「いい人だが雑」


レナが剣を抜く。


「やっぱりこうなるのね!」


ノヴァは一つケーキを受け取り、ぱくり。

もぐもぐ。

全員が見守る。

ノヴァは真顔で頷いた。


「……おいしい」


そしてパルフェーヌを見る。


「でも、ちらかしてる」


パルフェーヌ、膝から崩れる。


「ぐはぁ! 正論!」


その後、王都総出でスイーツ回収作戦。

レナは暴走三段ケーキを追跡。


「止まりなさい!」


ゼルクは上空のケーキ群を誘導。


「整列しろ!」


フィリアはチョコ噴水の流量調整。


「甘すぎる」


アルヴェリアは巨大プリンを受け止めていた。


『ぬるぬるする……』


ノヴァは中心で指揮。


「そこ、おさらに」

「それ、こどもに」

「そのいちご、わたし」


日が暮れる頃。

街は片付き、広場には整然と並ぶ大量のケーキ。

人々へ無料配布。

歓声が上がる。

パルフェーヌは涙ぐんだ。


「夢が……叶った……!」


エリシアは即決した。


「あなた、王都専属パティシエになりませんか?」

「ぜひ!」


ノヴァは苺ショートを食べながら満足そうだった。


「これ、いい」


レナが笑う。


「ようやく平和な事件だったわね」


その瞬間。

兵士がまた駆け込んできた。

全員が固まる。

兵士は叫ぶ。


「大変です!」

「今度は“巨大ゼリー”が城壁を越えて――」


ノヴァ、即答。


「もうしらない」


広場には配布されたケーキ。

笑顔の人々。

泣いて喜ぶパルフェーヌ。

……そして兵士の報告。

“巨大ゼリー、城壁越え”

レナはその場でしゃがみ込んだ。


「もう情報が入ってこない……」


ゼルクは真顔で空を見る。


「我も限界だ」


フィリアは静かにケーキを置いた。


「逃げ時」


エリシアは青ざめている。


「ま、待ってください皆さん!」


その時。

ノヴァがすっと立ち上がった。

苺を食べ終え、手をぱんぱんと払う。

白金の翼がふわりと広がる。

そして王都全体を見渡し、ぽつりと言った。


「もう行こう」


沈黙。

次の瞬間。

レナが跳ね起きる。


「賛成!!」


ゼルクが即答


「異論なし」


フィリアもこくり。


「合理的撤退」


アルヴェリアは誇らしげだった。


『決断力が育ったな』


エリシアが慌てて駆け寄る。


「そ、そんな!」

「王都はまだ皆さんを必要としています!」


後方で兵士が叫ぶ。


「巨大ゼリー、門番を包み込みました!」


ノヴァはじっとエリシアを見る。


「管理……しっかり」


エリシア、深く刺さる。


「……はい」


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