真名の冷めた目
彼と清子は挨拶以外、一切口を聞こうとはしなかった。彼は昨夜の清子の言葉に酷く自分を疑い、真名に対する態度を改めようかどうしようかと迷っていた。彼の心は、そんな過去に囚われていた。清子が彼の挨拶に浮足立っていることも知らず。二人の沈黙はリビングの部屋を重くした。清子も意地を張り、彼に冷たい態度をワザとらしくみせた。彼はそれを真に受けた。
リビングに真名が入ってきた。ボサボサの髪の毛には、一切やる気がみられなかった。彼は真名をみやると、軽く頷いて挨拶の代わりとしようとしたが、その時清子が真名に声をかけた。
「顔くらい洗ってきなさい。お母さんに何もかも言わせないで」
彼と真名は無言だった。険悪なムードに真名は嫌気が差したのか、サッサとリビングを出ていってしまった。その時彼が見た真名の目は冷めきっていた。
彼は清子を恐れながら、真名に声をかけようとリビングを出る仕草をはじめた。清子は彼の気配に気づいているのか、少し身体を強張らせた。彼はソッと立ち上がり、リビングを出て洗面台へと向かった。
真名は櫛で髪の毛をとかしていた。後ろにたった彼に、真名の冷たい視線が鏡越しに刺さった。
「なに?私急いでるんだけど」
「学校はうまくいってるか?」
「・・・まあね」
彼はそれだけしか聞けなかった自分に嫌気が差した。自分は本当に真名を恐れているのだろうか。何も言うことが出来ない。いつからこんなに娘に気を使うようになったのか。清子の言葉が頭を巡る。




