清子の心の襞
清子は一人ベッドの上で目を覚ました。横に夫がいないことを確認した清子は、昨晩の自分の物言いを少しだけ反省した。しばらく横になって眠りの名残を惜しむように起き上がらなかった清子は、10分程してようやく身体を起こした。ゆっくりとベッドから降り、寝室の灯りをつける。ベッドの横にある鏡台の前に座り、乱れた髪を整えた。鏡の向こう側にいる自分の顔は、若い頃のそれと比べて見劣りのするものだった。一抹の不安と寂しさを覚えた清子だったが、すぐに諦めの気持ちが気分を切り替えた。さあ、今日からまた頑張るぞ。清子は寝室のドアを開けて、戦闘モードに入った。
リビングに入ると、ソファに彼が眠っていた。小さく丸まった身体が、清子の母性をくすぐった。風邪はひいてないかしら。
清子が台所に立ち朝食の準備を始めると、彼が目を覚ました気配がした。清子は知らんふりをして、黙って準備を続けた。昨日の言い争いが気まずい雰囲気を醸し出している。清子は自分からは謝らないと決めていた。
「おはよう」
彼の一言に清子の心は浮足立った。それを悟られまいと、無言で食事の支度をした。苛立ちと喜びが混在する、少女のような気持ちがバレたら、自分が負けるような気がした。
まな板を包丁が叩く音がリビングに響く。味噌汁の匂いが部屋に充満していた。清子は彼の気配を探りながら、水道の蛇口を思いっきり捻った。冷たい水が流れる。シンクに流れ込む水は、清子の感情を象徴しているかのように音を静かに立てていた。




