別々の寝室
その晩、彼と清子は別々の寝室に床をとった。清子は寝室に、彼はリビングのソファに寝ることになった。結婚生活も20年になろうかという時期に、このような事態は初めてのことだった。今まで仲良く同じ寝室で床を共にしていたことが、彼にとって幻の幸せのように思われた。
彼は硬いソファの上で眠りにつけずにあがいていた。先程の清子の言葉が頭の中を巡る。自分は真名のご機嫌を伺う、父親失格者なのだろうか。清子の怒りももっともだ。自分だけが正義面をして、叱ることを放棄する卑怯さに自分で呆れた。
いつも隣でみていた清子の寝顔がみれないと、何だか寂しいようなセイセイしたような気分になる。一人で寝ることは、結婚前は当たり前だった。なんの気兼ねもなく、のびのびと寝床を使える。しかし、愛する人がいなければ、それもやがて虚しいものに変わるだろう。彼は寝室に行こうかと思い悩んだ。今行けば、清子は歓迎してくれるのではないか。優しい笑顔が彼を包んでくれるのではないかと、淡い期待を胸にした。
一方で彼にもプライドがあった。あれだけの罵倒を浴びせられて、のうのうと謝罪をしてたまるものか、という意地であった。自分は清子が言うほど家族を蔑ろにはしていない。家族のために一生懸命働いている。段々と怒りが彼の心に湧いてきた。寝室になんぞ戻ってやるものか。清子が謝るまで自分はずっとリビングで寝てやろうか。ギブアップするのはどっちだ。
長い夜は時計の針の音だけが妙に響いた。




