言い争い
「あなたもしかして真名を恐がってるんじゃないの?きつく叱れないのも、きっとそのせいね。私ばっかり悪者になって真名に嫌われて、あなたはお気に入りの優しいお父さんを演じればいいじゃない」
清子の怒りは収まる気配がなかった。彼は言い返そうにも、清子の言う事が図星であることに気づいて、自分が恥ずかしくなっていた。
「お前の言う通りかも知れない。真名を大切に思うあまり失うのが恐いんだ。最近多いだろ?父親と口も聞かない娘たち・・・。だからって心配してないわけじゃない。真名にも何か事情があるんじゃないかって考えてたんだよ。学校で勉強か友達と上手くいってないとかね」
「あなたっていつもそうよね。いいわ、自分は正義の味方になってればいいのよ。悪いのはいつだって私なんだから」
「なにもそんなこと言ってないじゃないか。ちょっとは冷静になれよ。真名に聞こえるぞ」
「いいわよ!聞こえったって構いはしないわ。真名だってこれを聞いて反省するかもしれないじゃない」
彼はこれ以上何を言っても無駄だと思い、口をつぐんだ。清子がこちらを睨んでいるが、彼はビールを一口飲みテーブルに視線を移した。この間までの幸せが、どこか遠くへ消えてしまったかのように思えた。実際、思い過ごしではなく幸せは消えてしまっていた。彼の感情は麻痺して、痛みをやり過ごそうとしていた。




