落とし前
◯センゴク
「お前、どうやって落とし前つけるんだ?」
俺はふうっと白い煙をはるか下を歩く人々に吹き付けたつもりだったが、煙はそのまま真っ暗な空へと溶けていった。
「さあな」
ツバキは上を向いて夜空に向かって煙を吐いた。
屋上に吹く風はきっと下よりも強いのだろう。
まるで全て吹き飛ばしてくれそうな、そんな風だった。
ま、本当に吹き飛ばしてくれたらありがてえんだけどな。
「俺さリクのこと結構信用してたんたぜ?」
ツバキが呟くように静かにそう言った。
俺は横目でツバキを見つめた。
リクの姿を思い出す。
子犬みたいな人懐っこい性格だった。
ツバキのことを誰よりも慕っていて腰巾着みたいにずっと付いて回っていた姿が俺の記憶には残っている。
「あいつ、金持って姿くらますような奴に見えなかったんだけどな」
「センゴク、それはサカキに対して言ってるんじゃねえのか?」
俺は黙ってタバコに火をつけた。
「人が腹ん中で考えてることなんてわからねえもんだ」
ツバキはそう言って目を細めて夜空を見上げた。
俺は逆に街を歩く人々を見下ろした。
「サカキがした行動を俺は今だに理解できねえよ」
「それは俺も、いや、親父ですら驚いているはずだ。知ってるか?センゴク。サカキの通夜のあと、親父の奴酒をガブ飲みして俺の肩つかんでよ、号泣し始めたんだ」
俺は驚いてツバキを見つめた。
「まじか」
「ああ。俺は本当にあいつのこと信じていたんだってそう言って泣いてたよ」
「親父がそんなことを」
俺は思い出していた。
サカキの通夜での親父の姿を。
“逃げてきた俺を弱い奴だと思うか”
「サカキは俺たちと同じ道を歩いているもんだと思ってた。俺も思いっきり踏み外しちまったけどな」
ツバキはそう言って笑った。
「お前なあ、笑ってるどころじゃねえだろ」
「ま、俺なりに落とし前つけるよ。それにセンゴク、俺がいなくなりゃあお前にとっては得だろ?」
俺はツバキを睨みつけた。
「何が言いてえんだよ。ツバキ」
ツバキは、タバコをくわえたままにっと笑った。
「俺が犬死にしても無駄にはならねえんだなって思って」
“それが俺の役割だから”
俺は思わず目を見張った。
サカキの声が聞こえて、ツバキとダブって見えたからだ。
「お前、今サカキのこと思い出したろ?」
俺はその言葉に何も答えなかった。
というよりも答えることができなかった。
そんな俺を見て、ツバキは少し微笑んだように見えた。
「じゃあなセンゴク」
そして、そう言って俺の前から去っていった。
白い煙だけをそこに残して。
そのうっすらと消えていく煙を見つめながら俺は昔を思い出していた。
この組に入った頃。
ツバキと俺とそしてサカキは、そのときからの仲だった。
お互い下っ端の仕事ばかり回されて上からはこき使われて殴られてへとへとになっては愚痴を言ってはゲラゲラ笑って。
辛いときは、お互いに励ましあって支えあって生きてきた。
本当の家族のように。
そう。
俺たちはそうやって生きてきたんだ。
まるで青春って言ってもいい・・・ていうか、俺たちにとってはあの時期が青春だったのかもしれない。
でも、いつからか変わってしまった。
この組で上へとのし上がるには、時として仲間を裏切らないといけないときもあるのだ。
あの頃には信じられないような行動を俺たちはとるようになっていた。
ある者は組を裏切ってある者はそんな友を見捨てた。
涙すらそのうち出なくなった。
そうして、俺は今ここにいる。
だから俺はきっとツバキを踏み台にして上を行く。
俺はもうあの頃の俺とは違うんだから。




