サカキの漫画
◯センゴク
「そこはさ、流れ的に俺が死ぬとこなんだよな」
病室でそう笑いながらいったサカキの言葉が俺には理解できなかった。
「は?流れ?」
「あ~いいや。お前にはそういうの分からないだろうから」
「なんだよわからないって」
「だから、俺がお前に秘密を言ったろ?」
「漫画を書いてるってことをか?」
「なんかそう言われると恥ずかしいな。ま、とにかくそのことをお前に告白した時点で俺には死亡フラグってのが立ったはずなんだよ」
「しぼうふらぐ?」
「で、話の流れ的には俺がそこで刺されて死ぬはずだったんだよ」
「お前・・・何言ってるんだ?」
「ほら。やっぱりお前にはわからなかっただろ?」
俺はサカキの言っていることが何だか別の世界での言葉に聞こえた。
そんな俺に呆れた様子のサカキはパイプ椅子の背もたれに大きく伸びをしてもたれた。
「お前、アニメだけじゃなくて漫画とかも読んだことないだろ?」
そう言って机の上に置かれていたバスケットの中からりんごをひとつ手にとった。
「俺たちの世界にそれは必要なのか?」
「いや、必要ないけど。娯楽ってのは生きていく上で必要だと思うぜ」
サカキはりんごにかぶりつき、もぐもぐと口を動かしながらにやついた顔を俺に向けてきた。
こいつのこういうにやついた顔はいつも何かを企んでいる時の顔だ。
「何だよ。その顔は」
「なんかお前になら読んでもらっても平気な気がしてきた」
「何が?」
「俺の漫画」
「はあ?」
「お前、退院したら俺の漫画読めよ」
「何でお前の漫画なんか」
「いいからいいから。お前なら全然漫画のこと理解してなさそうだから読まれても平気っていうか」
「それ読む意味あるのか?」
「あるんだよ」
即答かよ。
俺はそんなサカキを茶化してやろうかと思ったが、やめた。
サカキの表情は真剣で茶化す気にはなれなかったからだ。
「お前が刺されて思ったんだ。俺たちって組同士の抗争だけじゃなくてこうやってカタギの奴らからも恨まれていつ刺されてもおかしくない状況だって」
俺も今回のことでそれは痛感していた。
カタギだからってなめていた。
俺たちはカタギの奴らを殺人鬼に変えてしまうほどの力を持った存在なんだってことを。
俺を刺した奴は俺がここ2.3ヶ月取り立てでよく訪ねていた奴だった。
俺は借金を作る人間が悪いんだと、こうなっているのは自業自得なのだからどんな罵声を浴びせても構わない、そう思っていたから罵声も暴力も手加減はしていなかった。
だからこそそんな俺はあいつにとって恐怖そのものだったのだろう。
恐怖から逃れるために恐怖を消すしかなかった。
だからこうして俺は今病院のベッドの上にいる。
「いつ死ぬかわからない。まあ、そんなの生きてたら誰でもそうなんだけどよ。でも、それを実感したからこそ死ぬまでに誰かに知って欲しいんだよな。俺の漫画。このまま誰にも知られないままなんてなんか」
そこでサカキは言葉が詰まった。
「なんか、なんだよ?サカキ」
サカキは力が抜けたように笑った。
「なんかむなしいだろ?」




