ソウマの言葉
◯センゴク
あいつのあんな真剣な顔、仕事でも見たことなかったぞ。
俺は思わず思い出し笑いしていた。
「あいつは言ったんだ。実は漫画を事務所の俺のロッカーの中に隠してある。退院したら読んでくれって。でも俺も色々と忙しくてな。読む時間なんて」
俺は横にいるソウマを見てぎょっとした。
そいつは、茶封筒から取り出したサカキの漫画を手に持って固まっていた。
「お、おい。お前サカキが漫画書いてたことぐらいでそんなに驚かなくても」
ソウマの手が震えている。
俺は、一瞬何のことかわからなかったが、すぐに理解した。
こいつは俺の話を聞かずにサカキの漫画を読んでいたのだ。
俺はまた体中が熱くなった。
「てめえ、人の話全然聞いてねえじゃねえか!」
俺はソウマの胸ぐらをつかもうとしたが、またもやぎょっとしてしまった。
ソウマはサカキの漫画を持ったまま泣いていたのだ。
「な、なんで泣いているんだ?」
ソウマはまっすぐ俺を見つめた。
「君は・・・読んだ?この漫画を」
俺の中でさっきまで熱くなっていた体が冷めていくのを感じた。
そう。そこなのだ。
俺がソウマに頼みたかったこと。
「もちろん読んだ。サカキが生きている間は読めなかったからあいつが死んでからになっちまったけど、読んだ。でも、俺は」
本当にあいつの言うとおりだった。
「俺、全然こいつの漫画理解できなくて。ていうか、マス?みたいなんで分かれてるせいで次にどこを読んだらいいのかもよくわからなくてよ。で、文字を読んでも誰が何喋ってるかもよくわからねえし。そもそも、そいつらの言葉って本当に合ってんのかってぐらい俺には理解できねえんだよ、だから俺、お前に」
ソウマは唖然としていた。
俺の言葉こそ理解できない。そんな顔だった。
「な、なんだよ」
「センゴク君」
ソウマがじっと俺の目を見つめた。
「これは君たちの物語だよ」
そのソウマの言葉に俺は思わず固まってしまった。
この意味不明な漫画が?
俺たちの?
だから俺がソウマに問いかける前に、ソウマは茶封筒にサカキの漫画を入れると俺の胸に押し付けた。
そしてそのまま固まった俺を残してあいつは去っていった。
「お、おい!」
やっと俺は動きだしたものの、ソウマの後ろ姿を見送っただけでなぜか追いかけはしなかった。
俺の中でずっとソウマの言葉が響いていたからだ。
“これは君たちの物語だよ”
俺は結局肝心な頼みごとを言えなかった。




