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蝶美少女VS蝶美少女

パリスを運ぶアイを殺さんとするアズールエイルバタフライ、ティケと、

それを防ごうとするアブセンスバタフライ、アイリーン。


2匹の闘いは完全にアイの姿が見えなくなったときにはじまった。

周囲一帯を緑の霧で覆い尽くすアイリーン。

もはや空間そのものがアイリーンの一部となった。

パリス同様実態を持っていないアイリーンには物理攻撃は通用しない。

炎には弱いがティケの攻撃にその手段は存在しない。

だが――――――――――――――





「霧なんてのは吹き飛ばせばいいだけ。そんなこともわからないの?空を飛んでるくせに。」


烈風と呼んでも何の謙遜もない風が周囲に吹き荒れる。

確かに霧状で存在するアイリーンには非常に有効な攻撃手段であった。


だが、アイリーンはそん所そこらにいる底辺の霧状生物ではない。

上位昆虫系種族である。それぐらいで片が付くようならそれに見合うランクは持っていない。



突如周囲の霧が集まりだすと蒸気は水に、つまり緑の霧は魔酒へと姿を変えた。

圧倒的高密度で顕界するアイリーン。どうやったのか先程の霧全てを足したよりも高い質量になっている。

その上飛行が可能で、対物理能力は健在。

その超高密度の魔酒は触れただけで神経を狂わせ、アイリーンの任意で蒸発させることで強力に熱を奪っていく。

現にアイリーンから滴り落ちた魔酒がアイリーンの真下を中心に氷原を作っている。


「吹き飛ばす?やってみればいいわ。――螺旋九頭酔龍」


技名こそイレーネに相対した時と同じだが、明らかに威力、制御力、範囲、効果、全てが別物である。

熱を放出することなく危険なほど圧縮を繰り返し続け意図的に高温に上げ発火した炎龍3体と、

逆に気化膨張により意図的に温度を下げ続けた結果氷の体表を持つにいたった氷龍3体、

そしてその姿を『存在しないもの』に変えた不可視の虚龍3体がその咢を開けティケに襲い掛かる。






しかし

「それがあなたの本気?『その程度』だったら期待外れだわ。」

死の風が急激に龍を構成する魔酒自体の命を奪い取り、

よろけた竜たちを狂風で互いにぶつけ6体の竜を消滅させる。




「貴女みたいな群体染みた不実体は殺したことないけど、殺せないなんて思ったことは無いの。」


ティケはその翼をはためかせる。

蝶族の翅とは明らかに異質な翼。

羽根の代わりに小さな翅が集まった翼。

余りに異質であったがその姿は殺し合っているアイリーンが思わず魅入ってしまうほどに美しかった。



翼から舞い散る翅が一斉に指向性を持ち途中にある形無き竜ごとアイリーンに襲い掛かる。





しまった、

そうアイリーンが思った時だった。

翅が極白と極黒の光と闇によって全て散った。

「…間に合った。」

「……今回だけ…ですわ。」


場にミラージュバタフライとアビスバタフライが現れた。

「なん…で…?」

「……パリスを見つけていたのは…キミだけじゃなかった。…パリスを隠すのは大変だった。」

「そして……貴女と同じ結論に至ったのも1匹ではなかった…ということですわ。」




「数だけは多いみたいね。まぁいいの。これで全部邪魔者は揃ったのなら手間が省けるんだから。」



突如無風の空間を狂風が吹き荒れる。

渦巻く烈風には無数の翅が散っている。

当たればその命を直接削る類のものだ。

無軌道に吹きすさぶ風はやがて鎌首を持ち上げた蛇のように狙いを定めて3匹に襲い掛かった。



しかし、

「…数を数えるのは、予測と計算の基礎の基礎だよ。―――――インフィニットアウラ」

「敗北の味を…知っているかしら?―――――――――――――ディスペアーアビス」

「やはり不甲斐ない馬に変わって正解でしたね。―――――――螺旋九頭酔龍」




スキル『極光』によってかつてのパリスの科学レーザーに匹敵するレーザーが、

絶望を噛み締めたものが深淵から呼ぶ闇よりも尚暗い闇が、

魔酒より産み出されし9つの忠実にして狂暴な龍が、

蒼穹の翼をもつ蝶に襲い掛かる。




拮抗したのは一瞬。

一瞬拮抗しただけでも大したものだった。

死の鎌は打ち砕かれ、極光と極闇と魔酒がアズールエイルバタフライに襲い掛かった。





生存に必要な最低限の体力も失いティケは地に墜ちる。

「わかったら、邪魔をしないことね。」

「…悔しいのは…キミだけじゃない。」

「そういうことですわ。」





「………ずっと…」

「えっ」



「ずっと待ってたんだから、ずっと探してたんだから、ずっと決めてたんだから。

パリス君のお嫁さんになるのはわたしって!!

あなた達のようなぽっと出に打ち負かされるほど『幼馴染』ってのは脆弱な立ち位置じゃないんだから。

正義なんだからっ。

わたしが一番パリス君の事を愛しているんだからっっ!!!!!」




まるでいろんな世界の幼馴染属性の怒りを代弁するかのようにティケは吼えると、

その身体は風で宙に舞いあがり真の姿を開放した。

死の川を吸い尽くしてえた真の力。それは死天使の鋏。

その蒼き翼はその力の一部分にすぎない。あくまで群青(アズール)の翼(エイル)なんてのは仮初の名でしかない。









アズールエイルバタフライ AZURE AILE BUTTERFLY→ アズラエールバタフライ AZRAEL BUTTERFLY RANK SS+++

その真の名は死天使(アズラエール)。生者の命を断ち切る鋏をもった絶対者である。

その姿は蒼穹を纏う『空(そら)』の翼というよりはどこまでも空虚な『空(から)』の翼。

何処までも哀しく何処までも恐ろしく何処までも美しい死の天使の姿をしていた。



「嘘…ですわよね?」

「…計算外。」

「そんなのって…。」






「あはははははははは、ねぇそこの3匹さん?優しいわたしは最期に後悔する時間と、

わたしとパリス君に謝る時間をあげる。――――――――――――3.2.1はい、時間切れ。

じゃあ、向こうに行く準備はOK?」




「インフィニットアウラ!!」

「ディスペアーアビス」

「螺旋九頭酔龍」


先程の攻撃をぶつけるが、

その鎌のように振るわれる蒼穹に色めく死神の翼によって刈り取られた。


「――――ホロウサイズ。…その程度?……位階が違いすぎて障害にもならないわ。

じゃあこちらから、――――クリアスカイ。」






ティケは空間に何もない空間『無』を投影する。

しかしその空間には現実には3匹の蝶を含め様々なものが存在する為、

重なり合う二つの世界はその齟齬を埋めるために互いが互いを侵食し、

アイリーンたちはその存在ごと削り取られていく、



「くっ。」

「強すぎますわ…。」

「…なにか、…なにか方法が或る…はず。」



耐えようとするも耐え切れぬダメージに落ちるアイリーン、

圧倒的な力量差に折れそうになるイレーネ、

何か手段を探すも空間そのものを削り取る攻撃の防御や回避の手段など見つけられないユーミア。


絶望的な状況の中ユーミアの中に響く声があった。

<全く、いつまでもふらついている彼を呼びに来たらあなたがこのザマとはね。

もう少し広く物事を捕えなさい。

守勢に回って振りなら攻勢に出ればいい。

パリスくんも言っていたでしょう?世界はもっとシンプルにできているって。

…私を倒したんだからもっと胸を張りなさい。

私の代わりに階を昇りなさい。ユーミア・スカラードラプラス。>


「姉…さん…?――――――――――――わかった。だから力を貸して。」


<えぇ妹に甘えられるのは姉の本望。―――――私の紡いだ階をあなたに。>



ユーミアは膨大な存在量(けいけんち)を手に入れた。

ユーミアの位階が上昇した。

ユーミアはラプラスバタフライRANK SS+++に進化した。


「2匹とも、闇と水でこの空間を満たして。」

「……どういうことでしょうか?」

「……何をするつもり?」


「いいから早く。」


周囲の空間が闇と水で埋め尽くされる。

それもすぐ削り取られて薄まっていく。

正直目晦ましにしかなっていない。




だがそれで十分だ。

闇と水に身体を削られながらもクリアスカイの範囲を脱したユーミア。

一度攻撃範囲から出てしまえば何とか攻撃に回れる。

光学操作能力で姿を隠したユーミアにティケが気が付いたのは疲れ果てて闇と水が十分に出せなくなって露わになった空間に横たわる2匹を見た時だった。



突如右上から強烈な閃光が降り注いできたことを感じたティケはその方向にクリアスカイを放つ。

しかし掻き消えたのはキラキラと輝く透明な鱗粉だけだった。

その直後真後ろから光が奔った。

しかしそれさえも発生の初動を認識したティケに作りだされた虚無により掻き消えた。

更に追撃を光が発生した向こう側にかけるも手ごたえは無い。

その周囲に翼を振るうがやはり手ごたえは無い。

一瞬空間が歪んだ方向へ広範囲へ翅を突き刺すがやはり何にも届かない。

そんな中左上から極光が降り注ぐがまた、クリアスカイで打ち消す。

しかし更にその直後真下から極光が4度目の輝きを見せる。

それすらも身を捻り躱して見せたが躱した先で何かに反射して跳ね返ってきた光に加え、

更に5つ目の光までもが襲い掛かる。





ユーミアはその意識をさらに演算の海へ深く沈める。

相手を惑わし自身を欺瞞し世界を騙せ。真実を識るのは―――――――――ボクだけでいい。

世界は常に動き続ける。だがもし世界の全てを識り、計算し尽くせるのならば世界は己の手の中に。

敵を識り、自分を識り、世界を識り、計算して計算して計算しろ。

「…………∬a・(r.θ.ψ)r^2・(C∩B)……Σab(r.θ.ψ)^3………」


躱しきれない光にティケは図らずも直撃してしまう。

「ぐがっっ」


「………a・√(r.θ.ψ)r^2・(C+F)……ωabπ^2(r.θ.ψ)^3…」



ティケの真上から、真下から右前から、左下から真横から、背後から、正面から、その直後再び正面から、

あらゆる方向から、ティケの右翅を頭部を左翅を腹部を胸部を撃ち抜いて撃ち抜いて撃ち抜いた。













幾度となく続く極光の前に崩れ落ちるティケ。

しかし狙ったかのように急所だけは綺麗に外されていた。いずれは問題なく回復するであろう。

だが、今のその状態では『世界を識るもの』に勝つことはできないことは明白であった。

そんなティケの前に透明化を解いたユーミアが降り立った。


「…キミの気持ちはわかる。でも他でもないパリス自身が選んだ幸せなんだ。

黙って祝福してはくれないか?……それが『愛』というものじゃないかな。」



「………。」

ティケは暫く黙っていたがやがてふらふらとどこかに去っていった。

「…仲直りは…できなかったね。」

そう呟いてユーミアが振り向くとそこにはアイリーンがいるのみでイレーネの姿は無かった。

「……こっちも、か、はぁ…。」



かくしてパリスとアイに狂気の正義は去り、

仮初の平穏が続いていくのであった。

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