蝶カッコいいパリス様VSブラックミサシープ
もはやパリスがアイと同棲してからかなりの年月が過ぎた。
2匹は自然に生活しているも距離感(物理)は結構ある。
…当然だ。近づき過ぎたら燃えてしまうからだ。
そんな中その状況を打破できる存在にパリスは出会った。
パリスの中の『L』の欠片を強く呼び起こす何かに引きずられながら
パリスは人里近くの森の小高くなったところへ飛んで行った。
近づけば近づくほど何かに引っ張られるように『L』の欠片が強く反応する。
小高くなった丘には明らかに人の手によって作られた祭壇が存在し、
その祭壇の近くには地下へ続く階段があった。
階段を下りていくにしたがって湿度が増し、息苦しくなり、甘ったるくどこか粗雑で苦い淫靡で妖悦な香りが漂い、
人間の熱狂する叫びと祈り、断末魔と喘ぎ声が聞こえてきた。
余りに怪しげな場所ではあるが強者であるパリスには
脅える必要など無かった。それに『L』の欠片が強くこの場所にいる何かを求めていた。
長い階段を降り切ったパリスは松明を両手に持ち振り回す男たち、
湧き出る泉のそばで淫らに絡み合う男女、高台の上で猿轡を噛まされながら必死に抵抗する生贄にささげられた男。
そしてそれを生きたまま喰らうパリスの『L』の欠片を引き寄せたものと出会った。
「MEE MEE MEEHEEEYEE!!」
(意訳;どうも皆さん山羊界のアイドル、エリちゃんだよー。今日は盛り上がってるー?)
高台の後ろ脚で立つ黒山羊の前で最前列の松明を持った二人の男がもぞもぞ喋っていた。
「黒山羊様なんか言ってるけど出来ればヒトの言葉でOK?」
「ばーか不敬罪だぞてめー。生贄に捧げんぞ?……まぁ俺とお前の仲だ。俺が翻訳してやっから我慢しろ。」
「やりぃ、愛してるぞ。」
「男に言われても嬉しかねーよ。…ちなみにさっきのは『宴に馳せ参ぜし者らよよくぞ集まった』だ。」
「………なんでわかんの?」
「『愛』だ。」
「マジか…。」
どうやらそれなりに訓練された信者がいるようだ。
「MHEEEEEEEE GMEHEEE!!」
(意訳;今日は私のライブに来てくれてありがとう。
でも残念ながら次が最後の一曲になります。)
「えー。」
「そんなー。」
「もっとー。」
どうやら訓練されたファンは一人ではないらしい。
「黒山羊様何言ってんのかわかんねーけどばんざーい。」
「……空気読めよおまぇ。今のはアンコールするとこだろ、JK。」
一部まだ訓練途中のファンもいるが彼もいつか歴戦の戦士になるだろう。
「GMEYEEEE?……MMMMEEEEEEEEEE!!!!!」
(意訳:え~?……でもせっかくここまで来てくれたみんなの為にもう1曲、いえ2曲殺ります。)
「YEAHHHHHAAAAAAA!!!!!」
「黒山羊様何言ってんのかわかんねーけどばんざーい。」
「HYOOOOOOOOO!!!!!」
「黒山羊様マジ慈悲深い。そこに痺れる憧れる~。」
「GMYEEEREEEEY UMMEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!!!」
(意訳;次の生贄はチケットも持たずに入ってきた其処の燃える蝶。
今日の最後の虐殺聞いてってください。曲名は『狂信者は黒山羊の夢を見るか?』、
と『そこのばぁーにんぐな蝶に消火活動』です。2曲続けてお楽しみください。
後、次回から増税的な何かの影響で生贄の数をもう少し多めにお願いします。
でもその分頑張っちゃうからみんな愉しんでね!!)
VS ブラックミサシープ RANK A+
黒山羊が吠えた途端その場にいた人間たちは何処から取り出したかバケツを装備し、
バケツリレーでパリスにバケツの中身をぶっかけにやってくる。
バケツの中に入っているは回復アイテムではなく地下に湧く泉から組んだ怪しげな水である。
バケツの水程度ならなんとか火球で相殺して蒸発させられないこともないがダメージが無いわけではないし、
その水がただの水という保証もないのでパリスは回避行動を取ることにした。
地下という行動が大きく制限される場所、
加えて満水になってない以上排水溝があるのは間違いないものの、
滾々と湧き出る生ぬるい泉が常に床一面を覆っておりその湿度がパリスを苦しめる。
そして地下という空気というか酸素の交換が行われにくいこの状況はパリスにとって有利とは言えず、
この地下を一気に焼き払って地上に引きずり出そうかな、そうバケツの水を躱しながら考えていた時だった。
「UNMMEEEEE MMMMEEEEREEE!!」
(意訳:~~~~~~~♪)
黒山羊から闇の波動がパリスの前にいる多くの信者ごと包み込むように迫ってきた。
「ったく、自分のとこの信者にも容赦ねーのな。」
パリスがそういって躱そうとした時だった。
信者たちがつつまれた闇のあたりから水が飛んできたのだ。
バケツの水を咄嗟に躱そうとしたことで闇の波動を躱しそこなってしまった。
音と地下を浸す怪しげな温水を内包した闇はパリスに強烈なダメージを与えた。
明らかに只の水攻撃などとは威力が違う。
こんなの只の一般人達が喰らって大丈夫なわけがない。
パリスがそう思っていたころ人間たちの中にもそう思っていたものがいたようだ。
「おいおいおい、黒山羊様凄すぎじゃんか。」
「当たり前だろ。本来は新興大宗教祖出来るお力がありながら、
俺たち信者の為に土着神でいて下さってるだけなんだぞ。」
「うちの黒山羊様すげーな。」
「当然だ。」
まぁ地下アイドルなんてまんま過ぎるのだがそんなことは置いといて、
パリスは先程の自分の思考の中に少し気になることがあった。
(只の一般人がこんなに大丈夫なわけがない……。……?。
この攻撃が一般人共には当たっていなかった?……いや思いっきり当たっていた。
ならこの攻撃は人間には効かない?………そういう類の技じゃないのは受けたオレが解かっている。
なら人間たちが何かのアイテムを持っていた?いやあのどう見ても全裸なやつたちは何処にももってないだろう。
…………だったら……。)
「ようやく見つけたぜ。そこの山羊、オレの幸せの為にぶっ殺してやるよ。」
パリスの結論は一つ。
この黒山羊は攻撃対象を任意に選択できる種族特性若しくはスキルがあるということだ。
この力があればパリスにその意思が無い限り触れる者を焼き尽くさなくて済む。
勿論倒したとしてもそのスキルが確実に手に入るわけでもないのだが、
パリスには倒せば手に入るという根拠のない確信があった。
パリスは炎の塊を信者諸共ブラックミサシープに撃ち放つが、
それをかき消すようにブラックミサシープから再び闇の波動が放たれる。
「MMMEERRREEYYEE!!」
(意訳;エリちゃんのファンに手を出させたりなんかしない。)
「おぉ、黒山羊様が守って下さっているぞ。」
「黒山羊様ばんざーい。」
「黒山羊様らぶゆー。」
「へっそうかよ。だったらこの地下いっぱいを高温に変えてやるぜ。」
そうやってパリスが燃焼温度と範囲を変えた時、
辺りが急に暗くなった。
信者の一人が地下への入り口への蓋を閉めたのだ。
この事によってパリスにとっては暗くなっただけでなく残存酸素量のリミッターが掛けられた。
挙句に疑似実体しか持っていないうえに非力な蝶族であるパリスには蓋を直接動かすことが難しい可能性がある。
そもそもふたを開けるのに手間取った場合階段の通路に詰まった袋のネズミならぬ袋の蝶になってしまう。
圧倒的なディスアドバンテージを受けたパリスは暗闇の中信者の持つ松明に浮かび上がった黒山羊を睨みつける。
基本的に可愛い女の子に優しいパリスであるが人間と昆虫種以外には大体適応されない。
勿論今回の黒祭司山羊のエリちゃんことエリファスに対しても同様だった。
誇りが多いわけでも乾燥しているわけでもないこの地下室において粉じん爆発などは起きそうにもない。
水蒸気爆発などを起こそうにも水が流動して熱するのには手間がかかる。
挙句にそもそもパリスにも大ダメージだ。ラノベなら大人気のこの二つの手段は使えない。
だからと言って長々と地下の空気自体を熱しては時間がかかるうえに、そもそも熱い空気は天井から溜まっていく。
だからパリスは手段を考えに考えた。
だが何も浮かばない。
仕方がないのでブラックミサシープに突撃することにした。
その炎の身体で直接焼き殺すことにしたのだ。
対するエリファスは右前脚をパリスに向け巨大な闇の障壁を作り出す。
暫くの間パリスと闇の障壁は拮抗していたが突如闇の障壁が渦を巻きだし、
その回転に巻き込めれたパリスは弾き返された。
壁に叩きつけられその炎が小さくなり時折不規則に揺れ出すパリス。
そんなパリスにバケツを持った信者たちが集まってきた。
(おい、うそだろ…?こんなところで終わるのかよ、オレは…。
マジか…。畜生、ようやくずっと昔から欲しかった何かが見つかるような気がしたのによ。
…………わりぃアイ、今日の飯は自分で捕ってくれ。)
そうパリスが考えていた時だった。
パリスの中の何かがパリスに囁く。
他者を犯せ、己を犯せ、世界を犯せ。
犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ、
オカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセ
オカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセ
オカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセオカセ―――――――、
己が欲望を自覚せよ、己が力を自覚せよ、
――――己の大罪を自覚せよ。
パリスの中の何か、『L』の欠片が強烈に疼き出す。
パリスもエリファスも己の中の因子が互いを求め合わんと貪らんと共鳴していくのが解かった。
『L』の欠片
『L』それは愛(LOVE)
『L』それは虚構(LIE)
『L』それは唇(LABIA)
『L』それは迷宮(LABYRINTH)
『L』それは享楽(LAD)
『L』それは世俗(LAIC)
『L』それは酒(LIQUEUR)
『L』それは繁栄(LUXURY)
『L』それは扇情(LASCIVIOUSNESS)
『L』それは好色(LECH)
『L』それは淫猥(LEWD)
『L』それは放蕩(LIBERTY)
『L』それは不道徳(LICENTIOUS)
『L』それは生殖(LIFE)
そして
『L』それは色欲の大罪(LUXURIA)
目の前の黒山羊を喰らわなくては己の内にあるものに喰われる。
パリスは本能的にそう感じた。
罪は誰もが背負うものながら膨れ上がった大罪は支えきれぬものを押しつぶす。
そもそも資格も無しに代償も無しに己を強くするものなんてそうは無い。
力ある称号『七つの大罪』は持ち主に応じてその名にふさわしい力を与えるが、
それに見合う力が無ければ重圧へ変わることもある。
…だからこそパリスの中で何者かがそれを抑えていてくれたのだ。
それを『L』の欠片を取り組むことで抑えが利かなくなってしまったのだ。
そもそも『L』の欠片は本当に他の命から奪って手に入れたものなのであろうか、
パリスがそう感じているだけで実の所他者にパリス自身が『L』の欠片を植え付けて回収しているのではないか?
パリスの中にあったものが飛び散ってそれが再び引き合ったのではないか?
考えればきりがない。
しかしただひとつパリスにも解かるのは目の前の黒山羊からその最後の欠片を奪えば、
パリスの『L』は完成するということだ。
先程の何かとは別の声がパリスの中に響く。
(もう僕の押さえは必要ないな。)
「あんたは…、………っ!?」
(これはサービスだ。じゃあ今度こそさよならだ。…妻が待っているんでね。)
「勝てねえな。兄貴には。」
パリスは膨大な存在力を手に入れた。
パリスはフレイムゼフィルスからバーニングゼフィルス(RANK A)に進化した。
パリスは七つの大罪『色欲』の正規保持者になった。
パリスの『炎の身体』によって無効になっていた『猛毒』が解放された。
パリスは今回の戦闘のみ任意のスキルを吸収できる確率が急激に上がった。
パリスから漏れ出す猛毒の気体が地下に充満していく。
次々と倒れる信者たち。
これでバケツによる脅威は消えた。
残るは敵の本丸だけだ。
先程とは比べ物にならない炎で燃え上がるパリスに、
「MEE?…MEEE………MMEEEEEEE……eeeee」
(意訳;知らない。こんな恐怖エリちゃんは知らない……。)
エリファスは脅えるだけだった。
そんな黒山羊に対し、パリスは告げる。
言葉は伝わってはいないだろうがその勝利を確信した自身だけは熱気に乗ってエリファスに届いていた。
「この炎の名前を教えてやろうか?―――――――――――――――」
パリスの炎の翅から散る火花の鱗粉が鋭い硝子の破片のような形になってエリファスに突き刺さり燃える。
周囲の毒ガスや炎の鋭片ごと闇の波動で打ち消すが信者たちが倒れてから先程までの力が出ていないようだ。
信者たちの応援が偶像であるエリファスに力を与えていたとでもいうのだろうか?
……まぁそんなことパリスには何の関係もない事なのだが。
パリスは黒山羊へと羽ばたいていく。
パリスが進む下にある浸された水はまるで道を開けるように蒸発していく。
その事がエリファスの恐怖をさらに増大させる。
「―――――――――バーニングラブ(物理)だ。」
恐怖で動けないエリファスの前にパリスは止まると少し浮き上がりその翅で包み込むようにエリファスを挟んだ。
「あーちーち燃えてるんだろーかってか?バーニングだけに。しっかり燃えてるぜ。」
下手をすれば人の大集落一つを支配できたであろう黒山羊は色欲の炎に包まれて死んだ。
パリスの『L』――LUXURIAは完成した。
パリスはスキル『対象任意指定』を手に入れた。
ブラックミサシープのエリファスを倒したパリス。
だが地下の酸素は無くなりかかり炎が消えかかってきている。
しかし一応方法はあるのだ。だが急激な力の消費に『色欲』の力さえも再び眠りについていた。
あーヤバい。そう考えながらもパリスは天井を焼き壊そうとした。
どうやら金属でできているようであってなかなか焼き切れない。
パリスは作戦を変えて『硬化』による疑似実体の炎で動かすことにしたが先程の熱で癒着したか変形したかでうまく開かない。
あと少し、あと少しの力で蓋が空きそうなのだが…。
もー無理……。
そうよぎった時急に蓋が軽くなった。
そこによく知った姿を確認したパリスはその意識を手放した。
何かに引き寄せられるように獲物を探しに言ったパリスに普段とは違う焦りを感じたアイはパリスの後を付けていくことにした。
途中その姿を見失ってしまったが突如強烈な熱気を感じたアイはその発生位置、即ち蓋の下にパリスがいると感じたのだ。
高温に熱された蓋を開けるためにその翅の大部分を火傷しながらもアイは中にいるパリスを助け出した。
パリスに触れた後でなぜか燃えていない自分に不思議を感じたがすぐにその疑問も忘れパリスを住処に連れて帰った。
そのアイの後ろからアイを…いやアイが運ぶオス蝶に強く視線を向けるものがいた。
「それがあなたの幸せなのね。……私が欲しいものは全て零れていく。まるで水のようね。
あの娘もきっと話せば理解はしてくれる。敗北者同士慰め合おうかしら。意外と物分りはいいから、あの娘。
………どうやらそうじゃない方もいそうですけど。」
「パリスくん……やぁ~っと見付けたぁ。
……わたしを置いてそんなのといちゃついてるんだぁ。悪い子だなぁ。パリス君は。
ううん、悪いのはきっとあのメスの方。…おしおきしなきゃ。」
「そこの貴女、馬にでも蹴られそうな相がでていますよ?」
「黙りなさいそんな失礼な馬がいたら馬刺しにしておくから問題ないから。
それよりあなたもわたしとパリス君の邪魔するの?」
「どうやら、馬が臆病で使い物にならないようなので代わりに蹴飛ばす必要がありそうですね。」
「馬でも他のメスでも変わらない。同じ結末にするだけね。」
「失恋に効くお酒を用意してあげる。」
「一匹で飲んでなさい。わたしにそんなものは要らないから。」
「忌むべき『クラミツハ』の力に感謝すべきね。彼の為に揮えるのだから。」
「例え何であってもわたしの死の風の前には全てが無力なのを知らないのね。」
「そう…?」
「えぇ。」
「だったら―――」
「だから―――」
「「貴女の命で証明してあげる。」」




