蝶カッコいいパリス様が出てこない代わりに仮面と師匠の話
仮面を拾った少年がいた。
その少年は仮面に導かれるように、いや取りつかれたように仮面の力を振るいモンスターを倒していた。
よくメガネが本体。身体?それスタ○ドでしょ?的な表現があるがまさに今の少年はそれだった。
……もうちょっとカッコいい例えがいい?ならば言い換えましょう。
兵士とはなんなのか、銃を持ち敵を持つ戦士なのか?それとも銃の照準と安全装置を司る部品なのか?
もし兵士を後者だと認識するなら、少年は正しく兵士であった。
……これならいい?…おーけー見たいなので話を進めていこう。
少年は無謀な戦いに何度も挑んだ。翼が生えたトラを倒し、巨大な泥濘に潜る鰐をも倒した。
少年を襲ってきた同種族の人間も倒した。少年は悪人とモンスターには容赦はしなかった。
義務感にも似た正義で『悪』を断罪していた。せかされる緊張感はあるがそれなりに理性はあった。
もっともそれも作られたような機械的な理性であり少年本来の心とは大きく乖離したものであったのだが。
しかし煌びやかに輝く蝶を見た時いつも以上に抑えきれないほどの激情を感じていた。
少年は思った。コレを滅ぼさねばならぬ。そう心の奥深くで理解した。
しかし少年は相手にもされなかった。振り下ろした剣に感覚は無く、
強烈な熱が身体を貫き少年の身体の中心から光が突き抜けているのが見えた。
動けない少年を無視するかのように蝶は去っていった。
きっと蝶の記憶には残ってもいないに違いなかった。
少年には弟がいた。
少年がモンスターを倒した様を聞かせると弟は大層喜んでいた。弟にとって兄はヒーローだった。
時折戦いについてきたりもした。最初は断ったが弟がしつこくせがむのと弟がいても勝てるという驕りがそれを許した。
今回初の黒星を付けられた戦いには弟を連れてはいかなかったが負けたことは帰ってから弟に話した。
そしてその次の闘いの事だった。
森の中、相対するは目の前でたった今羽化したばかりの白き蝶。
勝てるかもしれないというよりかは勝ちたいという強い気持ちが溢れてきた。
しかし剣を振り上げて掛けようとした瞬間前の闘いで輝く蝶に撃ち抜かれた傷が大きく開きその場に倒れてしまった。
そんな倒れた少年にも容赦なく白き蝶から柔らかな光が降り注ぐ。
その光を受けた少年の傷口からは大きく血が噴き出した。
光を受けた時、少年の思念も一瞬剥離しかけた。
白き蝶に殺されるかと思ったときに雨が降り始めた。急な大雨だった。
すると白き蝶は何かを思い出したように何処かへ去っていった。
蝶の危機は去ったが少年のあたりに散らばった血の匂いはそれを狙うモンスターを呼び出した。
エオマイア
哺乳類系の最底辺クラスのモンスターだ。
少年たちの強さを測りながら、というよりはエオマイアと少年たち以外の強いモンスターがいないかを探っているようだった。
やがてその脅威が無いと判断するや否やエオマイアは甲高く鳴き始めた。
獲物を仲間にもおすそ分けしようと思ったのだろう。
「逃…げろ。」
少年は弟に告げた。自分だけでも逃げろ、と。
「いやだ、だってにいちゃ「逃げるんだっ。」」
呼吸もままならないであろうに少年は弟に叫んだ。
意識の低下とともに外れた血濡れの仮面を弟の手に握らせいった。
「この…、面が守ってくれ…る。次はエクサゴラ、お前が…ヒーローになるんだ。」
そういって少年は、いや仮面を持たぬヒーローは弟に背を向けエオマイア達に向き直った。
「……早く行け。」
「…っっ」
弟エクサゴラは無言で兄に背を向けて走った。
兄を犠牲にしてでも助かりたいと思う自分の弱さに、、
兄のように仮面をつけて戦おうと思えぬ自分の弱さに、
背を向けて何も言わずに何も言えずにただ走った。
エクサゴラは家に帰った後泣いた。自分の弱さに、兄の強さに、ただ泣き続けた。
両親が何を聞いても少年は何も答えなかった。答える資格など無いと思った。
答えて両親にまで失望されたくなかった。単純に弱い心が出たのも大きい。
ただあの出来事はたとえ両親であっても決して伝えてはならない誓約のようであったとも思えたのだ。
だから少年はひとしきり泣きつくした後、ただただ自身を鍛え抜いた。
兄の仇を討てるよう、兄の後を継げるよう、そして兄の正義を残せるように。
只管に鍛え続けた結果原初の目的すらも忘れてしまったが気づけば少年は最強の二つ名を冠していた。
後に剣聖と謳われた男の在りし日の出来事だった。




