蝶カッコいいパリス様が消えた後のお話
パリスがいなくなってからそれなりの月日が経ち、
(元)妻たちはそれぞれ別の道を歩んでいった。
ユーミアはクリアバタフライからミラージュバタフライへ進化し、より強力な存在になった。
そしてその演算速度はあの日パリスを失った時よりも遥かに上昇した。
それは悲しいシュミレートの繰り返しのたまものだった。
あの時どうやればパリスを失わずに敵を排することができたのか。
あの時の状況であの時の戦力であの時にとれる行動の中で。
只管演算を繰り返し続けたが、いつだってその終わりは所詮IFはIFでしかないということで終わってしまった。
しかしその結果彼女は今までのユーミアでは想像もつかぬほどより正確に、より遥か先を、より冷徹に視られるようになった。
他のものが見れば極限でありながらもさらにその先を見通す力を増し続け、
更に感情を封じる術を身に着けたユーミアは他の蝶族からすらも恐れられる『百計の女王』『最果てより帰りしもの』、
そして『世界を識るもの』として群れの内外を問わず強力なコミュニティーの統治者として君臨することとなった。
アイリーンは以前のようにオスを誑かすことを止め、ひたすら何かを探す様に森を徘徊していた。
アブサントバタフライから進化してアブセンスバタフライに進化した彼女の姿は、
鮮やかな緑色の霧でできた不実体染みたものであり、酒の霧そのものであった。
そしてその抱擁を受けたものは中毒死するか狂い死ぬと言われていた。
また、よく移動する為かこの時代の三姫蝶の中で尤も出現率が高いのは彼女だと言われていたようだ。
だが基本的に積極的に襲い掛かってくることは少ないとヒトたちの中では言われていたが、
特定の日にちが近づくと不安定になり、
周囲に無差別に妖酒の雨を降らせ受けたもの達を狂わせていった。
基本的に無害とはいえ、彼女の行動を妨害しようものならば即座に狂死や意識を狩られ死亡させられるため、
戦闘になればその危険度は死を確約するものである。
しかし見付けても逃げていれば問題にはなりにくいとヒト達には伝わっていた。
イレーネは先程までに述べた2蝶と比べればヒトにとっては最も危険な存在であった。
ダークバタフライの進化先ディープダークバタフライの更にその先の存在するアビスバタフライにまで進化したイレーネは、
夜中に明るく光るものがあるとその存在に近づきその光源ごと周囲を闇で喰らい尽くした。
この時代には、自殺という意味で、『夜の森で明かりをつける』という言葉が生まれたぐらいであった。
あるときとある集落に他の強い集落のものがやってきて不平等な講和を取り付けた時、
弱い集落のもの達は森を通り抜ける時は明かりが無いと忍び寄る闇に食い殺されると嘘の情報を伝えた。
弱き集落のもの達は森に近いところで済んでいたため深淵蝶アビスバタフライの恐ろしさを知っていたが、
勢力を広げて遠くから来た集落のもの達はそれを知らなかった。
弱き勢力のものが教えた嘘によって講和の使者は帰らぬものとなった。
その結果弱き集落のもの達の所に強き集落の戦士たちの軍勢が攻めてきたが、
その時には弱き集落のもの達は集落におらず代わりに夜で尚目立つ滾々とたかれる大きなたき火が森のすぐ近くで行われていた。
大きいといっても所詮はキャンプファイアーよりも小さな程度であったが、
月も無い夜にはそれがよく目立っていた。
強き集落の戦士たちはそこに弱き集落のもの達が隠れていると思い、
夜に目立つたき火をたいた愚かなもの達を、馬鹿だなと哂いつつ、剣や槍を持ち襲い掛かることにした。
全軍突撃であった。
ふと炎が消えた。
その時に強き集落から来た戦士たちは罠だと気付いただろうか?
…………答えは否である。
そのたき火の火と共に月のない夜より尚暗い闇によってその命の火を消されたのだから。
彼女はその後弱き民、いや今ではそれなりに強大になった闇の民に敬われる『漆黒の女神』、『闇の女神』、『夜の女神』などと呼ばれる存在となった。
しかし彼らの誰が知っているだろうか?『闇の女神』と呼ばれるイレーネの夫であったものが、
『女神の御使い』、『輝ける乙女の護り手』、『光の天使』などと呼ばれる存在であったなどと。
そしてこの時代恐らく最も恐れられた蝶族モンスターがいた。
それはこの3蝶のいずれにも当てはまらない。
その蝶の名は『蒼穹の熾天使』と呼ばれる存在である。
敵対する他の強力なモンスターの事如くをその翼で切り裂き葬り去る様は美しく荘厳であった。
固有名詞は『ティケ』、後の『断ち切るもの』である。




