蝶カッコいいパリス様VSコンゴウザル
『金糸篇』英国の人類学者によって纏められた原始的文明の呪術・魔術等の集約出版物である。
その中で最も有名であろう題名にもなっている『金糸』つまり寄生木の話をまとめると、
王を殺した者が次の王になる。というお話だ。
………何が言いたいかって?
弱き王はその座を奪われ、
強きものがそこに座するということなのだ。
寝取り略奪簒奪強奪、他者から奪うことに懸けては定評のあるパリス君には今更な話だろう。
何処の出版物だったかわからないが、要領のいい子供を育てるためには、
『他人に迷惑をかけないようにすることを教えすぎるな』というものがある。
要するに社会で生きていく以上一方の利益が他方の不利益になることは多々ある。
そんな時に常に他人に迷惑がかからぬように生きていくということは常に損を取り続けていくということだ。
…それで他人から信頼されればいいじゃないか、そんな意見もあるだろう。
しかし実際にそういう人種に向けられる感情は信頼というよりも軽視だ。
ようするにいい人じゃなくて『都合の』いいひとなわけだ。
だからさ、もうちょっとわがままに生きてみてもいいんじゃないか?
………まっ、冴えない奴が急にキョロ充気取っても、「何あれ、調子のってない?」って思われるだけなので、
不細工はやめといたほうがいいかもしれないね。
メネラオス、ミザリオス、クラミツハなど様々な旧コミュニティ―リーダーからその座を奪ってきたパリス。
まぁ一度は先輩方にコミュニティーリーダーの座から追い落とされる側に回ったこともあったが、
基本は奪う側として生きてきたのである。
ちなみに先輩方は今ももう生きてはいない。死神の鎌にかかってしまったようだ。
ここ最近では昆虫族ではないがコンゴウザルという特殊個体が率いる
金属猿と荒尾猿の群れを襲ったことがあった。真昼間の事であった。
群れの雌を護ろうと戦い、ついでに雄に対しては特攻を非情に命ずるボス猿にパリスは親近感がわかなくもなかったが、
どちらかというと同族嫌悪の方が上回ったようだ。
哺乳類系の一部に見られる高い知能と哺乳類には珍しい強力な筋力を併せ持つボス猿であったが、
哺乳類如きが同サイズ以上の昆虫族には向かうだなんてそれこそ『やめてよね――――以下略』だ。
レーザーが透過、または全反射するコンゴウザルや非常に反射しやすいメタルエイプではあったが、
イケメンレーザー一つが通用しないぐらいで勝てるほど最上位クラスの昆虫族は甘くは無い。
感覚や思考回路が複雑な哺乳類であったがゆえに、
触れることなく直接神経に伝わる『苦痛』は効果覿面であった。
金属や鉱物で構成された猿達にはそこまでは有効でなかったが、
哺乳類らしい細胞で構築されているアラオザル達は面白いぐらいに悶え苦しんで死んでいった。
勿論残りの猿達にも有効でなかったわけではない。
何せ強化硝子のような身体のグラスウィングバタフライに出さえその効果は通用したのだ。
効果が通用しにくい程度で覆せるほどパリスと猿達の実力さは近くは無かった。
それでもボス猿の意地か、コンゴウザルに限ってはパリスに襲い掛かってきたようだった。
しかし―――――――――――――――――――――――――
「虚像だってそれ。ったくどこを狙ってんだ?」
コンゴウザルが振るった剛腕に手ごたえは無く、コンゴウザルの腕は虚しくパリスの身体をすり抜けた。
すり抜けた腕にはうっすらとパリスの身体が映し出され、そして目の前のパリスは空気に溶けるように消える。
代わりにコンゴウザルの『背後』から嘲笑う声が聞こえてきた。
「お山の大将如きがこのオレ様に勝とうなんて夢見すぎなんだよコラ。」
パリスの翅がコンゴウザルを襲うがコンゴウザルの超高硬度の身体はそれを跳ね返す。
予想以上の硬さにパリスがびっくりしているとコンゴウザルの裏拳が襲い掛かってきた。
咄嗟にパリスは翅で受け止めるが非力な蝶族と類まれな豪腕のボス猿では筋力差がありすぎた。
裏拳に対し翅を添わせ受け流したパリスであったがボス猿はこの瞬間を最大の好機と見たのか、
一気にその両拳でラッシュをかけることにしたのだ。
「UKI UKI UKI UKI UKI UKI UKI UKI UKIiiiiiii!!!!」
攻撃を受け流しながらパリスは考える。
(重てぇ、それに硬ぇな。金剛石は砕けねえってか?
確かに硬ぇよ。だけど、だけどな?)
「ダイアってのは燃えやすいんだよっ!!」
突如コンゴウザルの両拳が燃焼を始める。
いつの間にか付着していたパリスの翅の鱗粉だ。
パリスの強みは冷気や空気振動など一つの分野に特化した究極的な強さではない。
器用貧乏というか万能的な強さが売りだ。
技のデパート、百芸そんな二つ名が付きそうなほどではないが十分以上の攻撃手段を持っている。
だがその中でも最も威力が高いのは光学攻撃である。何せ種族本来が持つ力なのだから。
コンゴウザルは咄嗟に地面を殴ることによって火を消したが、真の驚愕と絶望はその後だった。
群れ中の猿という猿がコンゴウザルに襲い掛かってきたのだ。
「UUUKKII!!!!」(何をしている、奴を倒せ。奴だ奴にとっとと攻撃しろ。逆らったら殺すぞ。)
そうコンゴウザルが吠えた途端ますます攻撃が苛烈になった。
勿論コンゴウザルに向かってだ。
―――もう解かっているものいるだろう。
『幻影』によってコンゴウザルがダメージを受けて今にも倒れそうなパリスの姿に見えているのだ。
ちなみにパリスはコンゴウザルの姿を取らず風景に溶け込んでいる。猿の姿は嫌だったらしい。
光学的な視力を最大の情報要因にしている金属猿達にはボスの姿が見えず困惑するが、
ボスの声がなおも攻撃を続けるように命じるため、困惑を頭から跳ね除けひたすら『敵』を攻撃することにしたのだ。
そして頃合いを見てパリスは『幻影』を解いた。
「UKKI?」(ボ、ボス?)
「U…KI」(殺す。)
部下に裏切られこの外敵に対し命がけで戦う場において王位の簒奪を企むのかと部下を疑うボス猿と、
この際赦してもらえないならボス猿を斃さないと生き残れないと考える猿達の間で仲間割れが起きた。
飛びぬけた強さであるものの一匹のボス猿と、数の勝負である一般猿。
互いに傷つきその命をすり減らしつつあった。
「ははははは、マジウケるんですケド。―――――――――――――でもさ?
オレ様の事シカトこいてんじゃねーよ。」
……姿を消しておいてシカトも何もあったもんじゃないだろうが、
先程までいた脅威をどいつもこいつも頭から消し去っている危機感の無さは哺乳類にあるまじき失態だろう。
…それとも勝ち目のない戦いから目を逸らしたくて勝ち目のある戦いに目を向けたのかもしれないが、
…ぶっちゃけ猿の事なんてどうでもいい。
このお話の主人公は―――――――――――――――――――――――――
「主役はオレ様なんだよっ!!」
パリスは空高くに舞いあがり、大気中から集約した光を波長を変質させて猿達の存在する周囲ごと照射する。
波長の種類はマイクロウェーブ。
水を含んだ木々が一斉に爆発したり燃焼を初め、周囲に蒸気や煙が立ち上る。
物凄い速度で熱せられる蒸気は瞬く間に広がっていく。
辺りに広がる水蒸気は先勝する木々が生み出す燃焼ガスによる燃焼促進を食い止める一方、
パリスのレーザーを浴びて温度を上げる容器となり、水蒸気に包まれた一帯の温度は300度に達した。
しかし300度では燃焼には至らない。
ダイアや金属の身体にはまだ通用しない。
ならばさらに出力を上げればいい。
「熱くなれよ。もっと熱くなれよぉぉっっ!!」
パリスは周囲に更に鱗粉を広げ光の吸収範囲を広げる。
天に直径100mのレンズが生成される。
虫メガネのサイズで火が起こせるのだ。
その何百倍ものスケールで焦点を虫メガネ同様に絞ればそのエネルギー量は火が起こる程度では済まない。
焦点を移動させるだけでそれに合わせて地面が焦げていく。
地面なら熱せられるだけだ。だがその進路に動物や葉っぱなどの有機物が入った時、
物体は瞬間的に燃焼した。
もはや蒸気は皆気体に変化し膨張してレーザーを受け止める壁の役目を果たせていない。
パリスは地上絵を描くようにレーザーで地表を削った。
筆を走らせたところから周囲を巻き込む火事が起こり更に被害を増やしていっている。
レーザーを照射しているときどこか森全体が動いたかのような気がしたが気のせいということにしてパリスは作業を続行した。
ちなみにパリスが書いたのは『オレ、超カッコいい』という日本語の文字だった。
後にこの世界の人間によって謎の文字として世界の108不思議の一つに数えられることになるがそれはまた別の話。
………えっ猿達?そういえばいたよね。
森と一緒に焼け死んで終わってた。
パリスはスキル『筋力強化』『ダイア化』を手に入れた。
『炭酸ガスレーザー』を使用できるようになった。
まぁ猿のメスといちゃつくつもりもないのでメスの個体を含めて大量虐殺したことには何の公開もない。
ただ、森に対し広範囲に攻撃した場合、被害をこうむったのは猿だけではないということだった。
パリスに対して何かが急速に飛来してきた。パリスはその存在に対し咄嗟に姿を隠して待ち構えた。
『ネクターアーピス』
ハチミツ集めの専門家で、種族として考えるにこの星の王座に就く蜂族のモンスターの一種だ。
クロニクルアカシアの良質な蜜を集め、
蜂族の中でもトップクラスの精錬技術を持って最上位のハチミツを作り出すモンスターである。
ちなみに今飛んできたのは女王級の個体だ。
まだ年若い女王ではあるが自分に自信があるのか小区画とはいえ森を焼き払った存在に対しても怖気づいた様子はない。
蜜蜂ゆえに蜂族の中では気性は丸く直接戦闘能力は低めとはいえ、彼女もまた蜂族の一角であり、
蜂族以外のものにその首を垂れることは無い。内心不安げでも精一杯強がって余裕ぶるのだ。
そんな彼女に対しパリスは――――――
「やべぇすんげぇ可愛い…。」
メス猿達に関しては何の容赦も見せなかったパリスだが、同じ昆虫種である蜂に対してはその賛美眼が働くのか、
種族的特徴で美女美少女だらけな蜂族の彼女に釘付けだった。
「やぁ可愛いこちゃん。」
「っっ!?誰っ!?」
姿が見えないのだから彼女がびっくりするのも無理はない。
それに気が付いたのかパリスは姿を見えるようにする。
「ごめんごめん。でもオレのイケメンに免じて赦してくれよ。」
そんな軽い態度のパリスに対しネクターアーピスは無言で針を向け攻撃態勢になる。
蜂族にとって蜂族以外のものは全て獲物でしかないのだ。
(時折蜂族の巣を破壊しうるほどの外敵も発生することがあるが、
プライドの高い蜂族はその『外敵』や『天敵』も含めて獲物と呼ぶ。
あくまで蜂族を超える者は一切存在しないという考えである。)
ネクターアーピスの女王であるアデルフィーナは内心焦っていた。
森を焼いた存在の招待は恐らく高位の蝶族。下手をすれば最高位かもしれない。
其れなりに小回りの利いた機動ができるという自負があるものの先程から一度も攻撃が当たらない。
其れに何と無く軽薄でチャラチャラしている。蜂族にはそういない。
アデルフィーナからすればもし蜂族のオスでこんなのがいれば軽蔑している。絶対タイプじゃない。
というかそういうタイプは怖いから近づきたくない。
それに蜂族でない時点で目の前のオスは彼女の恋愛対象外だ。
というより大前提としてそもそも彼女は――――――――――――。
イケメンの最高位蝶族であるパリスは喜んでいた。
種族は違うとはいえ、同じ昆虫族であり、容姿に定評のある蜂族の女の子が目の前にいるからだ。
すんごい妹系。もう守ってあげたくなる感じが甘ったるいハチミツの匂いと共にぷんぷんする。
余裕そうに一見見えるものの、どこか不安を隠しきれてないところが垣間見えるところがまた可愛らしくてイイ。
今やっているように至近距離で余裕ぶりながらも必死になっている姿を眺めているだけでも気持ちがいいが、
何とかして自分の女にしたい。そう考えていた時だった。
「デルフィッ!!」
「お姉様っ。」
大雀蜂のモンスターたるジャイアントヴェスパがやってきた。
ジャイアントヴェスパは同じジャイアントでもジャイアントバタフライのような体が大きいことが最大の利点であるものとは違う。
シーアイスヴェスパという存在はいるが、それでも古来より蜂族の最前線を護ってきた種族だ。
その繁栄と滅亡を繰り返し血で血を洗練してきた彼女たちの強さは昆虫族、いや蜂族においても一線を画す。
その強さの源は圧倒的なまでのプライド。蜂族の矜持を正しく継いできた種族なのだ。
ちなみにネクターアーピスはハニーアーピス系統の上位個体だ。
本来はまだ姫級でもよかったのだが、
その高い個体能力(主にハチミツ関連)ゆえかどんどん進化してしまった故独立して女王級になってしまったのだ。
先程も述べたとおりその蜂蜜は最高級品である。
そういうこともあってアデルフィーナのハチミツは他の蜂族の女王も重用しているため、
アデルフィーナは他の蜂族の中でも上位存在であるもの達から結構愛されている。
その筆頭がジャイアントヴェスパの姫である『お姉様』である。
ちなみに『お姉様』からの愛はLIKE若しくはFAVORITEだが、お姉様への矢印はLIKEではなくLOVEである。
先程の大前提というのは、
大前提としてそもそも彼女は―――――――――――――――
彼女は百合だ、ということだった。
気が強そうな美女が飛んできてパリスのテンションゲージは有頂天を突破した。
思わず声をかけてしまった。
「其処のお姉さんも超綺麗じゃん。ぜひ俺とお付き合い――――――
そういった瞬間だった。
「――どこの塵虫がお姉様とお付き合いするですって?」
地の底から響くような声がパリスに聞こえてきた。
アレッ?とパリスは思う。
此処にいるのはオレ様と妹系美少女と新しく来た美女。
こんなホラー系の声の持ち主なんて………現実逃避はやめよう。
…でもオレ、どこで間違った?好感度一気にマイナスの選択肢なんて無かった筈なんだけどな。
ネクターアーピス女王種 RANK 推定S+
一匹ではパリスには届かないものの加えてジャイアントヴェスパ姫種がこの場には存在する。
ただパリス的には目の前に美女美少女がいて逃亡というのは彼の男の矜持に関わる大問題だ。それはありえない。
そんなパリスに対しネクターアーピスだけでなくジャイアントヴェスパも攻撃態勢に移っている。
横のネクターアーピスの豹変に驚きながらも妹分を護らなければという気概が溢れてパリスに伝わってくる。
いいねぇ。そういう女も嫌いじゃない。
そう興奮しながらもう一度横のネクターアーピスの方をパリスは見たが、――――――――――――――
いないっ!?一瞬の間で完全にネクターアーピスを見失ってしまった。
直後パリスの真上から羽音がした。パリスは咄嗟に反応しようとしたが―――――――
遅い。
「失せろ塵虫っ!!」
パリスは遥か下の森に叩きつけられた。
外傷は大してなかったがパリスは暫く気絶していた。
―――――――――その頃上空では
「お姉様御気分悪くないですか?」
「………アッ、ウン。」
「か弱いわたくしではお姉様を護れるかどうか不安だったのですが……。」
「……アー、ソーダネー。」
「これが俗に言われる愛の力というものなのでしょうか(確信)。」
「…ソーナノカー。(白目)」
護るべき妹分が実はめちゃくちゃ強かったことと、
その妹分からなにやら不穏なオーラが出ていることに気が付きたくないけど気が付いてしまった『お姉様』は、
取り敢えず現実から卒業することにした。




