蝶美少女な■■■VSデススカルモス
■■■はあるものを追い求めていた。
それはかつて近くにあり、今はどこにあるかわからないものだった。
スカルモスというモンスターがいる。人型を含む脆弱な種には非常に恐れられている蛾族レア種モンスターだ。
スカルモスの何が恐ろしいかというと、その即死効果だ。
その効果内になれば問答無用の冥途送りに処される。
その背に背負った髑髏模様の仮面のような翅と鱗粉と人の耳にはキィキィ聞こえる鳴き声が作用して即死状態を引き起こすという説があるが、
詳しいことは判らない。まともに受けてしまったものはもはやそれを伝えることができなくなっているからだ。
相手が高ランクの存在や状況によっては即死作用は起こらないものの相手のランクが近いくらいであれば、
常に相手の脚を冥府の川底に付けるが如く死に引っ張りやすい状況くらいには追い込める。
本来ならまだ戦えるほどの怪我を負ったとしても、そのまま立ち上がる気力を無くして衰弱していくのだ。
話は変わるが、
人が宗教を信じるのは結局死の恐怖からだ。死んだあとの『無』が強いが為に死後の世界を想像し、共有し、
信仰する。例え地獄であっても無よりはマシなのだ。
人々にとって一番恐ろしいのは悪人でもない、竜でもない、
竜より恐ろしく強い神代よりの恐怖、ヴェスパでもない。
それらにより引き起こされる自らの死そのもの。
だからこそ、その死を強制的にわけもわからぬまま引き起こすスカルモスなどは人にとってはヴェスパよりも恐ろしい存在なのだ。
ヨーヨーを倒した蒼い翅の雌蝶は今日もとあるオスの蝶を探して草原を飛んでいた。
そんな彼女が遭遇したのは、
デススカルモス RANK A+++
スカルモスの上位体だ。死の強さが増し、更に多くのものを、更に強きものを屠ることができる存在である。
「あれ?ここらの蝶とか蛾はまとめて一掃したと思ってたんだけど…、まだ残ってたんだ?
紛らわしいし裏切者だし、……余計なものはいらないよね?」
「お前が噂の死神か…、なるほど、冷酷で無垢で、そして美しい。
この草原にいた或るコミュニティーの蝶全てを壊滅したというのはお前だったか。
あたしも死神と呼ばれていてね、死神は2匹もいらないと思っていたが、
その蝶も蛾もひっくるめたところが気に入った。」
「? だってどっちも大差ないでしょ?」
「そう思わない蝶族にどれだけあたし達蛾が苦しめられてきたことか。」
「いやだなぁ。…だってどっちだろうと『どうでもいい』存在じゃない。」
「まぁいい。あたしの復讐に手伝え。」
「復讐?わたし忙しいんだ。じゃあ頑張ってね。」
デススカルモスは今でこそボーイッシュ系美少女になっているが、
幼虫であった頃蝶族の幼虫に近づいていたところ、オスと思われてパリスに突き落とされた。
その事で怪我もしたし、様々な悲惨な目に遭い何度も死にかけた。
その犯虫である幼虫の頃からそれなりに有名であったパリスの情報を手に入れていつか復讐しようと考えていたのだ。
でも1匹では昔突き落とされたトラウマからか勝てる気がしなかった。デススカルモスになった今でもだ。
だからもう一匹の死神と名高い彼女に協力を乞うことにしたのだ。
「待ってくれ、ようやくパリスの情報を手に入れたんだ。
あの野郎、あたしを突き落としてくれやがって…。
頼む協力してくれっ。」
しかし先程からどうも彼女は協力してくれそうな雰囲気は無い。
そんな様子に必死になったデススカルモスの発言に蒼い翅の蝶は
「パリス君の敵……?あなた…、邪魔だよ。」
急速に雰囲気が変わるのをデススカルモスは感じた。
何処までも冷たい風。
これが…
「これが死神……」
「パリス君の敵はわたしの敵。邪魔者は―――――――排除しなきゃ。」
先程までの空気とは一線を画すどこまでも冷たい風を吹かせながら彼女は淡々と告げる。
ゴミがあるから掃除する。ゴミがたまったから捨てに行く。寧ろゴミが存在する事自体が許せない。
そんな感じだった。
デススカルモスは勘違いをしていたようだが彼女にとっては蝶と蛾は親戚のようなもので仲良く平等に行きましょう。
なんて考えているのではない。自分とパリス以外のあらゆる存在が平等に価値が『無い』のだ。
「あっそうだ。ねぇ死ぬ前に教えて?パリス君は何処?」
既にデススカルモスが死ぬ前提のように話す蒼い翅の雌蝶にデススカルモスは恐怖を感じたが、
あいにくと黙ってやられてやるほどに優しくも弱くもないつもりであった。
「知らねーよ。なんだったら後でパリスもそっちに送ってやるから先に死んでなっ!!」
デススカルモスは翅の髑髏模様をかすかに嗤わせ、呪いの金切り声をあげる。
既に空気中に散布した鱗粉が励起し死の呪いが発現した。
しかしその呪いは鱗粉ごと強い風に飛ばされてかき消された。
「知らないの?――――あなたもやっぱり余計なものだったみたいね。」
優雅に、悠然と、幽玄と、そして憂鬱気に蒼い翅の蝶は何事も無かったかのように呟いた。
それは圧倒的な力を自負した者の在り方だった。
ならば、と鱗粉を用いない死の呪いを金切り声だけで紡ぎあげる。
これでも死に近づけることぐらいはできる。
単純な作用として相手のダメージがより致命的なものになり、
勝機をつかみにくくなり、生存活力が下がるのだ。
その死に憑かれた様子はデススカルモスには認識できるのだ。
―――――しかし目の前の蒼い翅の蝶には何一つ変化はない。
「なぜっ!?」
「パリス君がいなくなってからわたしは死んだようなものだもの。」
跪く者にさえ容赦なくその鎌を振るう死が跪き鎌を納める存在。
それが――
「死神―――、か。……すげえよあんた。でもな死神はあたしの方が本家本元なんだよっ!!」
デススカルモスの周囲を薄紫の靄のような光がつつむ。この個体の進化の光だ。
デススカルモス→スティクスモス
スティクス。
それは神話に伝わる冥府の川である。日本風にいえば三途の川だが、
スティクスは同時に神々を罰する権限を持った冥府の女神の名でもある。
そしてその大河の水には神秘の力が宿っており、神にさえ仮初の死を与える猛毒であり、
また、不壊、不死を与える神水でもあるのだ、
その名を冠すスティクスモスもまた、それに相応しい実力を持った存在であった。
スティクスモスの周囲に昏い水のような文字のような影のような何かが滾々と宙に湧き出ている。
飲みこまれたが最後助かるものは無いであろう。
人にとってはもはや神域の存在たるSランクオーバーですらも、
川の形を取った死の奔流によってその命を押し流す。
スティクスモスの基本装備技であり、文字通りの必殺技である。
『冥府の洪水』
「冥府であのオスを待ってな。」
スティクスモスの周囲を渦巻いていた冥府の洪水は大蛇のように蒼い翅の雌蝶に襲い掛かる。
死の奔流は時間を増すごとに量を増していき、より狂暴に、より凶悪に変化していく。
その性質は飛び散った飛沫のような破片でさえ付着した周囲の草を一瞬で枯らせてしまうものだ。
蒼い翅の雌蝶は圧倒的過ぎる死の気配に流石に飲み込まれては生きてはいまいと判断し、
自らの翅に発生させた強風を押し当て、大きく羽ばたいて避けることにした。
決して逃げるつもりでは無い。なにせスティクスモスは彼女にとって排除すべき敵なのだから。
此処で排除しなければその脅威が彼に及ぶのだから。
単純に勝つことは厳しいだろう。何せ向こうの攻撃が当たりでもすれば即死亡なのだ。
いま彼女は天国に一番近い女になっている。
しかし彼女には助けに来てくれる羽のない演歌歌手のような名前の天使はいない。
ならば彼女自身が天使になればいい。
一匹の雄を護るためだけの死を振りまく天使に。
群青色の翅が淡く輝くと同時にその背に突発的な烈風が吹いた。
スティクスモスは遥か上空に逃げた蒼き翅の蝶に死の奔流を浴びせようと狙いを定めていたが、
次の瞬間突如目標を見失った。
もとよりその美しい空の色を転写したかのような色の翅は視認に困るところはあるが、
それでも、青空よりもなお鮮明なその色を見失うことは無かった筈だった。
それは圧縮空気による大気のレンズによって強制的に引き起こされた死角と高速移動によるもの。
そんな所見殺しの技を初めて見たスティクスモスに対処できる筈など無かったのだ。
しかし、結局のところスティクスモスはすぐ群青の翅の蝶を見つけることができた。
だが見つけた場所はスティクスモスの至近距離、
もはや死の奔流を浴びせるのには遅すぎた。
風を纏った翅がスティクスモスの全ての脚を斬り落とす。
そして止めを刺すべくもう片方の翅をスティクスモスの胴体に放った。
咄嗟に離れたスティクスモスは致命傷となる第二激を避けることができた。
更に行われるであろう追撃を予測し、蒼き翅の蝶の姿を探したが、その姿は一瞬だけ見えたがすぐ見失ってしまった。
かつてのとある魔王が行ったように自身の望む形に自身を作り変えた蒼き蝶。
そして魔王がそうしたように自身の望む形になるために必要となる最後のパーツ手に入れていた。
スティクスモスの脚を捕食することで。
スティクスモスが一瞬だけ捕えたまだ進化の途中ではあるがその姿は――――――――
蒼き翅の蝶を見失ったスティクスモスはその姿を必死に探すが見当たらない。
そんな中、一枚の小さな翅がスティクスモスの上に落ちてきた。
「羽根?……いや翅か。」
そういって見上げた空から舞い降りてきたのは一枚、二枚、三枚――――――
数を数えるのも馬鹿らしくなるほどの無数の翅。
その翅の持ち主は。
『ティケはアークアズールバタフライからアズールエイルバタフライ(未完)に進化しました。』
今だ未完成ではあるが鳥のように幾つもの細かい翅を羽根のように束ね翼に変えた、
蒼穹の翼を持つ死の天使だった。
そして完成のピースに必要なのは自身の命だということをスティクスモスは嫌なほど理解していた。
その今だ未完成であるはずの存在に絶対に勝てないと確信するスティクスモス。
圧倒的なポテンシャルの差を絶望的なまでにスティクスモスは感じていた。
だがそれでもスティクスモスは生きたかった。死を操りながらも死を恐れていた。
自身の身体に死の奔流の半分を使って
副効果である仮初ノ不死を付与し、
残り半分を使って襲い掛かる死の天使に向けた。
死の天使は真正面から半分になった死の奔流を自身の死の力を乗せた翼で斬り破り、
仮初の不死のごとスティクスモスを切り裂いた。
仮面のような翅を残しスティクスモスの身体を食べ尽くし、完全な進化に至ったティケは、
朗らかに笑った。
「馬鹿だね。死に脅えたものが死を従えられるわけないじゃない。
ううん、そうじゃないよね。そもそも一番愚かだったのはパリス君の障害物になったことか。
あっ、いつまでも死んだこの子のこと考えてても無駄だよね。そんなことよりパリス君を探すことを考えなきゃ。
余計なものは掃いて捨てないと。――――――――――――また、置いて行かれちゃう。」




