蝶カッコいいパリス様VSクラミツハ 7
なんだか偉そうな蝶がパリスたちの前に出てきた。
流石にこれまでの奴とは違うと気を引き締めなおしたパリスたちにクラミツハが示したのは和平であった。
「よくぞここまで至った我が娘よ。黒翅蝶になれたことであるし吾輩の元に帰ってくることを許す。
先程見せた強さに文句をいうヤツはもういまい。」
「誰がアンタみたいなのと…。」
「アンタとはなんだ。パパに向かって。」
「先程まで殺せと命じた口でよく言うわね。」
「ではお前を次期頭首に任命してやろう。これで我慢するがいい。」
「今迄にもらった貢物の中で一番欲しいとも思えなかった貢物ね。」
「あー。お取込み中の所わりぃーけど。あんたがリーンちゃんの父親ってことでおーけー?」
「いかにも吾輩こそは圧倒的紳士であるクラミツ「コイツが例の標的よ。さっさと殺して。」なんだと!?
そんなことをするわけないよな。若輩者よ。この偉大なる吾輩を「あっわかった。」なにぃっ!?」
「理解できない?私を2度も殺そうとして、いざ黒翅蝶になったら、いざ強かったら帰ってきてもいい?
――――――――ふざけるのも大概にして。……パリス殺っちゃいましょ。出来るだけ苦痛を与えてあげて。」
「まぁ、父親がいない女の子の方がいろいろ手間が省けるしいいか。…ってわけであんた存在しなかったってことにしてやるよ。」
「いや、待て、待つんだ。お前たちも種族を背負って立つ者になれば解る。お前たちがわかっていないだけなのだ。」
仔を育てる種族にとって自分の種族の者かどうかというのは非常に重要な話だ。
自身の遺伝情報をより濃く残すためにはそのことは決して悪くないことなのである。
仮に黒翅蝶族が産まれた卵の中で黒翅蝶族以外の幼虫を育てるということは、
血自体は繋がっているため若干たとえとしては悪いが、
自分の国に住む外国人に税金を使って様々な補償を施すことと同じなのだ。
外国人に保証を加える分当然自国民に本来いきわたる保証の内容は低下する上に、
自国の外国人が発展しやすくなり、その結果相対的に自国民が追いやられる形となり損をする。
その意味で黒翅蝶族が仮に黒翅蝶族以外を産んだ場合に追放するか殺すということは黒翅蝶族の発展の為何一つ間違ったことではなかったのだ。
ただ、そんな小難しいことなんかはパリスにはどうだっていい。
「っつーか種族とかそんなことより可愛い女の子の方が大事だし。…もう男と話すの飽きたわ。じゃあな。」
パリスはアイリーンが先ほど言った通りに『感覚操作』で苦痛をクラミツハに叩きこむ。
直接攻撃や光や炎と違って目視で認識して躱すことができないこのスキルは、
クラミツハに回避させることを許さない。
「ぐお”お”お”あ”あ”あ”痛い”ーーー。痛いよぉ”ぉ”ーーっ。
……痛い。痛いが逆に考えるんだ。痛いんじゃない。痛気持ちいいんだと。
――――んっほぉぉいだぎもぢいいぃぃ。」
類稀なる紳士ぶりを発揮しパリスの感覚操作を無効化?したクラミツハはパリスに闇を撃ち放ち反撃する。
思わずその紳士っぷりに気を取られたパリスは反応が遅れてしまったが、
割って入った同じく闇属性のアイリーンが翅で闇を弾き事なきを得た。
逆にアイリーンはクラミツハの周囲一帯を妖酒の霧で包み支配下に陥れようとしたが、
「酒は飲んでもおっぴろげるなぁー。酒は飲んでもおっぴろげるなぁー。でも素面ならおっぴろげて良し。」
謎の発言と紳士パワーとで妖酒の誘惑を断ち切ったクラミツハに、
おっぴろげるなってアンタも元々裸じゃんとパリスは思わず突っ込みたくなったが、
あまりの紳士度にその気も失せてしまった。
「吾輩ほどの紳士ともなれば酒を愉しみこそすれ、身を崩すことなど無いのだよ。
吾輩がそう簡単に酔っぱらうとは思わないことだな。…ヒックッ。おっぴろげたーい。」
色々突っ込むところはあるが敢えて突っ込みはしない。なぜなら紳士は妖酒の影響を受けながらも、
アイリーンに操られることなく、寧ろ予想が付きにくいフニャフニャとした整合性のない動きでパリスに襲い掛かってきているからだ。
その読みにくい攻撃に加え、紳士のボケに突っ込みまで返してやるほどにはパリスは余裕綽々なわけではない。
肉弾戦では劣るアイリーンはクラミツハの周囲の妖酒の霧を更に深めることでパリスのサポートをするが、
上手く効果が出ているようには見えず、寧ろ裏目に出ているようだ。
妖酒がクラミツハを蝕むたびにその動きはキレを増し、読みにくくなり、不規則になっていった。
「紳士的錐もみあたーっく。」
そういいながら急にその場でくるくる回りだしたクラミツハに対し、パリスは可燃性の糸を放つが、
その攻撃は回転から急に空中で蹲る様に体勢を崩したクラミツハに躱されてしまった。
「おえ”え”ぇ。回り過ぎて気持ちが悪い。お前のせいだどうしてくれる。」
もう突っ込んでもいいかな。思わず某鍵の空な金髪少女的な気持ちになるパリス。
だがそこにあるのは涙ではなく紳士的空間だ。
紳士といっても恐らくクラミツハは、
ピュアな心を持つものだけがいける紳士の社交場に行ったらおっぴろげて出禁になる類の紳士だ。
「でも吾輩は紳士だから許ーす。でもやっぱりパパはそんな気遣いのできないオス認めませーん。」
そういってクラミツハはその翅を交差してパリスに振り下ろしてきた。全くの脈略の無い攻撃にパリスは防ぎ損ねてしまった。
基本的にパリスは集中しているときはその鋭敏な蝶感覚で優勢に立ち回るが、
集中を切らされると弱い。
蝶族は基本的にその鋭敏な感覚と先読み思考と相手の行動の把握を最大の武器としている。
そしてパリスはことさらにその傾向が強い。
つまり強制的にそれらの武器を奪う相手とは相性が悪いのだ。
「さて問題だ。吾輩はこの後おっぴろげるか、おっぴろげないか?」
その質問ここでする意味あるのか?そうは思ったものの既にパリスは完全にペースに飲み込まれてしまっている。
「…Aのおっぴろげるで…。」
「本当にそれでいいんだな?」
「あっはい…。」
「答えが不安だったら吾輩の娘にヒントをもらってもいいぞ?」
「いや…大丈夫。」
「よろしい。では正解は……じゃかじゃかじゃかじゃか……
正解は…
虫生に正解など無い。未来のことなど判るか今をしっかり生きろ若輩者がっ、だ。」
クラミツハはパリスにふらふらと近寄りその前脚でパリスを掴み大樹に叩きつけ、
そのまま何度も闇属性を付加した翅でパリスを痛めつける。
ギャグにしか思えない戦い方でとてもじゃないが一族の長には見えない威厳の無さでありながらも、
先程まで一族の誰もが勝つことができなかったパリスを圧倒するクラミツハ。
蓄積したダメージに気にしがみ付くのがやっとになったパリスを放って、
クラミツハはアイリーンに向き直った。
「もう一度言う。クラミツハに帰ってくるのだ我が娘よ。」
急にシリアスキャラに戻ったクラミツハにアイリーンは答える。
「では何をくれるの?」
「お前が望むモノなら何でもやろう。」
「何でもいいのね?」
「何でもだ。お前こそが真のクラミツハに至る。なんだってくれてやろう。」
その場に停止するかのように緩やかに羽ばたく2匹のクラミツハ。
先程からクラミツハを支配下に置くことは叶わないにも拘らずアイリーンはクラミツハの周囲の妖酒の霧を一層濃くしている。
「そう…、ならアンタの命を貰いましょうか。パリスッ!!」
アイリーンの合図とともにパリスは可燃性の糸を吐きつける。
クラミツハは謎の紳士力パワーで糸を躱すが…、
「甘い。」
外れたにも関わらずパリスは糸を発火させる。
炎のロープはクラミツハにこそ当たることは無かったが、周囲の妖酒に引火して大爆発を引き起こした。




