蝶カッコいいパリス様VSクラミツハ 5
アイリーンの色気溢れる容姿に攻撃を戸惑うオスたちは多かったがそれでも彼らの中にクラミツハに逆らおうとするものはいなかった。
クラミツハの命は、この大樹では絶対なのだ。
そんな襲い掛かってきた蝶たちに対し、
「可愛い女の子よりおっさんのいうことの方が大事なわけ?…もうお前ら死ねよ。」
パリスが光や可燃付加した糸や苦痛をまき散らし、
「愚かなオス…」
イレーネの作りだした妖酒の雨に意識を奪われ操られて自殺したり相打ちになる蝶が続出した。
アイリーンに対する気後れか向かってくる蝶はパリスに対しての方が多いが、
多彩なスキルを持つパリスにとって難しいことではなくこのペースでいけば頂上まで行けると思っていた矢先であった。
大樹の皮の黒色が強まり渦を巻き始めた。
大樹の中にため込んだ黒翅蝶族の闇の力と当主であるクラミツハ現頭首の力が融合して初めて実行可能なスキルが発動するのだ。
そのスキルはその技の主に寄って高らかに宣言された。
「絶対決闘領域・マッスル編」
一瞬パリスは嘘だと思った。いや『派手に忍ぶ』や『ヒモ』みたいに結構ふざけたスキルはあるが、
いくらなんでも『コレ』は嘘だろう、と。
しかし横を見ると周囲の反応はまるで違う。
「おぉ、これで…」
「お前らもこれで終わりだ。」
「クラミツハ様…」
大樹の蝶たちは勝利を確信したかのような声をだし、
「始まった。……これが…絶対決闘領域・マッスル編…。
これが始まる前にもっと早く勝負をかけていれば…。」
アイリーンはいかにもしまったというような悔しそうな表情をしている。
パリスにはなんかよくわからなかったのだが、
よくわからないということは特に問題が無いのだろうと再び攻撃に移り、
苦痛を周囲に撒き散らそうして、
苦痛を全く感じていないようなオス数匹に翅による強烈な打撃を受けた。
「ぐはっ、……技が…使えない…だと…?」
少しは考えればよかったという後悔をする以前に現状が理解できていないパリスに、
打撃を加えた蝶の一匹が口を開いた。
「どうなってるのか知りたいという顔だな。良いだろう。説明しよう。
『絶対決闘領域・マッスル編』はこの大樹に詰まった今までに黒翅蝶族がため込んできた闇の力とクラミツハ様の御力により、
発動できる結界型スキルなのであーる。その効果は決闘領域を指定しその空間からは出れないようにし、
更に己の肉体以外のあらゆる攻撃方法を封じる恐ろしい技なのであーる。
そして我らこの上下移動を何度も余儀なくされるフィールドで戦うことに慣れた者に、
スキルが使えないお前たちが勝てるかな?」
そういって蝶たちはパリスに襲い掛かってきた。
絶対決闘領域・マッスル編の結界は大樹からほんの少し回りまでだけを覆っており、
大樹から大きくはなれたとこには出られない。
大樹を中心に見て大樹に近づいたり離れたりする動作が大きく制限され、
上下又は左右に動く動作が中心となって来るのだ。
パリスは蝶族の中においてもなお冴えわたる蝶感覚で相手の攻撃を読み切ろうとするものの、、
この上下に移動することがメインであり、敵の数は多く、
そしてその敵が同じ蝶感覚をもつものばかりであるこの状況では厳しいものがあった。
そのうえ同じくこの上下の移動をメインにすることに、
ここの蝶ほど慣れていないアイリーンを庇いながらでの戦いでパリスの傷は増えていった。
アイリーンに関して言えば戦闘能力のほとんどが自身の肉体ではなく特殊な能力に起因するものであり、
完全に足手まとい以外何物でもなくなっている。
パリスが下からの攻撃を横に避け躱し、横に待ち構えた敵も上昇し躱す。
やはり上にもいた蝶の攻撃さえも体を捩じる様にして躱すがその無理をした体勢を狙われ、
先ほど横から攻撃してきた蝶の第2激を喰らってしまった。
その攻撃さえも本来パリスは躱すことができた。
しかしもし躱してしまったら、
そのときパリスの横にはアイリーンが移動してきており攻撃がアイリーンに直撃してしまっていた。
パリスはそれは避けたかったのだ。
パリスが何度もアイリーンを庇うように動くのに気が付いた蝶たちはむしろ積極的にアイリーンを狙うことにした。
そうすればやたら回避能力が高いはずのパリスが庇うように自分から攻撃に当たってくれるからだ。
アイリーンを庇ってなおパリスは非常に上手く立ち回っている。
しかし『非常に上手く』程度ではあと少し足りず、その僅かに足りない部分が捌き切れない攻撃となってパリスを痛めつける。
パリスを復讐の駒とみていたアイリーンであったが自分の見積もりの甘さ故に、
アイリーンを庇って傷付くパリスに流石に心苦しくなってきた。
「無理して庇わなくていいわ。」
思わず出たパリスに対しては初めての媚を売らない地の喋り方。
「でも、可愛い女の子を傷つけるわけにはいかないだろ。」
「でも私はお前を復讐の駒としか見ていなかったのよっ!!
彼氏なんてのは体の良いリップサービス。そこのとこ判ってる!?」
それでもいつも通り過ぎるパリスにアイリーンは本音を爆発させてしまった。
「じゃあ駒から彼氏に昇格できるようもっと頑張ろうか。」
「何ソレ…。」
「カッコいいところ特等席で見せてやるから、それでオレに惚れたら本物の彼氏ってことでOK?」
「………いいわ。…初めてよお前みたいなの。」
パリスは気が付かなかったが復讐の駒としか見ていな『かった』と言ったと言った時点で、
姉とオスの趣味がだいぶ近いところがあるのかもしれなかった。
だが、そんなアイリーンの心情まではパリスは読み取ることはできなかった。
カッコいいところを見せる。
そうは言ったもののパリスはアイリーンを守りながら慣れない上下をメインとした機動の中で戦いつづけながら、
何匹かの蝶を倒していったもののその身体にはダメージと疲労が蓄積していっていた。
珍しい種族なのではなかったのかと疑うほどの量の黒翅蝶族と戦い続け、倒し、
少しずつではあるがその身を頂上に近づけていったパリスたちであるが、
結界が張られて1時間が経つが今だパリス達は大樹の中盤付近である。
高度はそれほど上がっていないがダメージだけはしっかり増えていっていたのだ。
「カッコいいところを見せるとは言ったけどさ……、
でもやっぱやられっぱなしはカッコよくねーよな。」
パリスはそうごちる。
今の自分が勝てないのなら、勝てる自分になればいい。
これは今の自分を弱いと、強きものに憧れて本来の自分を否定する変身ではない。
今の自分を肯定して、さらにその先に進む変化だ。
夢を見るものではなく叶える者にしかたどり着けない明日へ行く行為だ。
今まで積み上げた経験値を糧にパリスは更なる高みへ至るため、『自分』に変わる。
黄色がかった紅い光がパリスの体を包んだ。
「蝶翩身」




