蝶カッコいいパリス様VSクラミツハ 4
アイリーンは物心ついたときには隠されて他の者の目につかないように生きていた。
そういう風に生かされていた。
そしておそらく父と母であろう蝶の声が聞こえた。
「『アレ』の噂が広まっているようだな。処分方法を速く考えなくては。
全くお前があんなのを産まなければ…」
「私が全部悪いんですか!?私が悪いっていうんですかっ!?私が悪いっ!?
イレーネはしっかり産んだのに。…いいですよっ、いいですよっそれでっ!!私が悪かったんでしょう。」
オスの蝶は失望を隠す気もないかのように表にだし、メスの蝶はヒステリックに叫び返す。
そして次の日、自分が紛い物を産んだことに絶望したのか、自ら命を絶ったような死を雌の蝶は迎えていた。
パリスの持っているコミュニティーは(可愛い女の子は別として、)硝子翅蝶だけのコミュニティーであるが、
それはあくまで成虫用の専用コミュニティーだ。
昔パリスが幼虫の時にいたコミュニティーは蝶でさえあれば誰でも入れたし、
入るのが当たり前で入らなければ死ぬとかそういうのではなく、参加も自由だった。
そもそも基本的な蝶族は放任主義で、何に進化するかわからない卵を産むだけ産んだ後はどこかに行ってしまう。
その後生まれた幼虫が何になってどう生きるかは自由なのだ。
しかし黒翅蝶族は仔を育てる。それがアイリーンの悲劇の原因の一つ目だった。
そして同じく仔を育てる蜂族程、黒翅蝶族の進化先が確実に固定されていないことがアイリーンの悲劇の原因の二つ目だった。
生まれた幼虫は黒翅蝶族として生きることを宿命づけられ、それにそぐわないものは排除される。
どう生きるかを固定されたうえで固定した側の都合でその尊厳を打ち壊す。
名前さえ付けられずに、処分する方法とタイミングを考えるためだけに生かされていた妹は、
暴風雨が大樹を襲った晩にクラミツハの住処である大樹の最上階から突き落とされた。
どうして生き残れたのか自分でもよくわかっていなかったが生き延びることができた名も無き幼虫は、
クラミツハの成功例である姉イレーネ(Irene)の言い換えであるアイリーン(Irene)という名前を自分で付けた。
自分は姉(Irene)の影であり、いつか成り代わってクラミツハに、黒翅蝶族に復讐するために。
アイリーンは当初はどの昆虫に進化するかわからない内定持ちで無い身でありながら、
非常に珍しいと言われる黒翅蝶系統に進化した。
それは奇跡のような偶然か、クラミツハの血が遅すぎた必然を起こしたのかはわからなかったが、
彼女は変異種であるものの黒翅蝶系統のモンスターになったのだ。
彼女は自身の大樹に帰る権利を取り戻したが、そこに帰るときは復讐する時と決めていた。
その日に至るまで、自分の力を磨くため、戦力となる駒を見つけるため、
酒のように他者を酩酊させる自らの能力を使い続けていたのだ。
自分を捨てた両親に対して、母に対しては何の感慨も持っていなかったが、
父に対しては複雑な憎しみを抱えており、その影響でオス全般を見下していた。
彼女は敢えて丁寧な言葉を使いオスに媚を売るように接するが、内心自分に操られるオスたちを軽蔑していた。
様々なオスがその容姿と能力に引き込まれる一方、メスの蝶からの評判は最悪だった。
例え他のメスに売女と蔑まれようと、買い手すらつかないメスよりはマシだと彼女は思っていたし、
そんなメスに対する怒りなどクラミツハに対する怒りと比べれば心に置いておくスペースももったいないものであった。
そして遂に、その力を十分に磨き上げ、実力の高いパリスという兵隊を連れて復讐しに来た。
アイリーンがクラミツハを名乗った時、周囲の黒翅蝶族は皆アイリーンが捨てられた妹だと悟った。
クラミツハに非内定幼虫がいたのは公然の秘密だったのだ。
その様子が最上階まで伝わったのか、遥か高い樹の頂上から大樹に住まう全ての蝶に命令が下る。
「その2匹を殺せ。」
その命令の主はクラミツハ当代頭首。イレーネとアイリーンの父親である。




