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蝶カッコいいパリス様VSビッグヒューズスパイダー

失恋した男性に対し、

世界中に女性は星のようにいるというような表現があるが、

そのうち星のように輝く美女はほんの一握りであるし、

ライバルはそれこそ星のようにいる。

何より星というものは手を伸ばしても届かない。

ただ一つイケメンという例外を除いては。



とあるイケメンの教えより。

釣れた魚にはそれほど餌をやらない主義のパリスが最近の日課通り外を散策していた時だった。


「なっ、この無礼者。…こっこの私を食べるつもりでは無いでしょうね。…食べませんよね。

……食べないでください。お願いします。……嘘っ嘘嘘嘘こんなの嘘。近寄らないで。

……誰か、誰でもいいから早く助けなさいぃぃぃっ。」


最近どこかで聞いた虫の声がした。

何だろうと興味本位で近寄ってみたパリスの目には火属性の蜘蛛系モンスターの一種に今襲われんとしているお嬢様な蝶がいた。

蝶は巣の外殻に引っかかっており、蜘蛛は糸の端の方にたたずんでいる。


パリスも今まさに獲物を食わんとしている導火線(ビッグヒューズ)大蜘蛛(スパイダー)は遠目にしか見たことはないが、

それは距離を取る必要があったからだ。

導火線蜘蛛系統は森林などに見られる火属性の蜘蛛モンスターだ。

その特徴は普段はその糸で張られた巣は透明で見難いが、その糸は非常に引火しやすく、かつ燃焼が持続する素材でできている。

そして成長し進化するにつれてその身体の赤みと糸の燃焼速度と温度が上がっていく。


体重が軽く火属性に弱い蝶族には非常に相性の悪い相手である。

力が弱く体重の軽い上に表面積の広い蝶族は蜘蛛族の巣にかかると中々逃れることは難しい。

その上種族的に相手の裏をかくことが特異な蜘蛛族は、

たとえ付近に来た蝶族がその鋭敏な感覚で糸に隔てられた風を感知して避けようとしても、

そこまでを想定して一見見えやすい巣をわざとつくり油断させ、その周りに非常に細い糸で本命の罠を仕掛けるものも少なくは無い。

だからこそパリスは知覚した時点で近寄らないようにしているのだ。


蝶族の中でも感覚が鋭敏なパリスであればかなり早い段階で罠に気付けるため、

パリスにに蜘蛛の糸グルグル巻きファッションのマイブームが流行る日が来ることはきっとない。

なぜなら偉い人も言っていた。イケメンは危うきに近寄らず、と。

そう思っていたはずなのだが目の前に美女がいて助けなくてはイケメンではない。

逆にいえばイケメンには美女を助ける義務があるのだ。


パリスは昨日パリスを振ったメスの蝶を助けることにした。

まずその姿を光学操作により他者に見えないように変え、ゆっくりと蜘蛛に近づく。

感づかれないようにしながらもなるべく急がなくてはならなかった。

なぜなら導火線(ビッグヒューズ)大蜘蛛(スパイダー)の名の通りその作り出した糸は導火線のように引火しやすい素材となっており、

蜘蛛が少し糸を着火させればたちまちのうちに先程まで透明であった粘着性の糸は炎の網へと変わり獲物を焦がす。

蜘蛛にワンアクションでも起こされれば終わりなのだ。


だからこそパリスは慎重に慎重を重ねる。美女の損失は世界の悲劇だ。

だからこそ美女を救う行為は世界を救うことに等しい。少なくともパリスの中ではそうだった。

パリスはそれほど慎重だったのだ。お蔭でギリギリまで気づかれることは無かった。

しかし遅すぎたのだ。パリスが大蜘蛛に一撃を加えるのより大蜘蛛が雌蝶に対する空腹の限界の方が早かった。

大蜘蛛は糸の近くで先端の2本の前脚を擦り合せる。

擦り合せた脚から発生した火花が足元の糸に引火し可燃性の透明の導火線は赤い炎の線に変わり伸びていく。

哀れな獲物を焼き焦がすために。

しかしその炎の線は伸びて燃え広がる前に消えた。



―――――いや、消された。

先程まで火がついていた導火線の周りににじみ出る様に緩やかに色づく蝶の形が現れる。


「いや、あちーあちー燃えてるんだろうか(笑)。ちょっと焦げ位はしたかな。

あっそうそう、このイケメンのオレ様の身体に焦げを作った罰でお前死刑な。」


間に合わないと判断したパリスは自分の翅で燃え広がろうとする導火線を翅で挟み込むように消したのだ。

焼き鏝を押し当てられたような熱さに思わず透明化が解けてしまうが、もう隠す必要もない。

取り敢えず女の子の前なので余裕があるふりをしているがその内面は怒りに燃えている。


状況は好転したわけではない。メスの蝶は依然としていつ発火するかわからない糸に捕まっている。

ある意味メスの蝶を虫質に取られているような状況ではある。

しかしそれならそれでやりようはあるのだ。

強盗犯が人質を取った時の最終手段と同じだ。













――――――すなわち狙撃である。


近い距離ではあるが蝶であるパリスの飛行速度では先に脚を擦り合せる速度には勝てない。

ならばその場で行える攻撃を行えばいい。

翅の角度を調整して光を絞り込む。

流石に蜘蛛がワンアクションを取るだけでいいと言えど、光よりは遅い。

ピンポイントに絞られた光は蜘蛛の眼を焼き切った。


痛みに暴れる蜘蛛はひとしきり暴れた後迫ってくるパリスに気付き、炎のフィールドを発生させ迎撃しようとした。

力強さこそないものの鋭そうな翅をはためかせ飛んできたパリスに蜘蛛はその翅で攻撃を仕掛けてくると見当づけた。

しかしパリスの飛行速度と翅の大きさからして一歩下がらずとも届く前に焼き殺せると蜘蛛は判断した。

前脚を振り上げ、振り下ろし交差するように擦り合せようとしたが、

蜘蛛はやり慣れたはずのその動作に失敗した。



――――――片方の前脚が斬り落とされていたからだ。

警戒していたはずの強化ガラスで造られた刃のような翅による斬撃で、だ。

翅の先端部分のみを透明化させ、攻撃範囲を実際より短く見せ判断を読み誤らせた。

ユーミアの闘い方から一部を参考にした虚実を織り交ぜる舞闘法だ。



擦り合せようとした片方の脚が無くなったにもかかわらず擦り合せようとしてしまった蜘蛛は思わずバランスを崩す。

そしてその隙をわざわざ見逃してやる程、パリスは甘い虫ではない。

脚が無くなった側に潜り込むように入り込んだもう一本の前脚を上から翅でなでるように斬り落とす。


振り下ろした両前脚が無くなった蜘蛛の後ろにいつの間にか回り込んでいたパリスは左翅で蜘蛛の後ろを持ち上げる様に押し上げ、

右翅で体が持ち上がるに合わせて伸びあがった後脚をそのひとつ前の脚ごと切断する。

前に倒れこむも体を支える前脚の無い蜘蛛に止めを刺すかのように、

左上方に構えた両翅を蜘蛛の身体に叩きこみ前後の脚を失った蜘蛛を巣から叩き落とした。








地に落ちた蜘蛛は落下の痛みに耐えながらも速くその場から去ろうとする。

巣を張る蜘蛛は巣を張ってこそ蜘蛛としての能力を発揮できるのだ。

地に落ちたままでは弱者として他者の餌になりかねない。

しかし逃げるためには脚が足りなかった。当たり前だつい先ほど斬り落とされたのだから。

脚が不足していたためか着地にさえ失敗して当初四対あった内の最後一対の脚さえ多少痛めてしまったがそれでも逃げなければならない。

幾つか眼が潰されて視野が狭くなってしまったが、死角のどこかにまだ先程痛めつけてくれた蝶がいる筈なのだ。

たった一対の、しかも痛めた脚で体を引きずりながら蜘蛛は必死にその場を離れようとする。



逃げなくては、逃げなくては、そう焦る蜘蛛の至近距離から絶望を告げる声が響き渡った。



「なーに逃げてんだよ、…オレ言ったじゃん。

―――――――お前死刑な、って。」




蜘蛛は首筋に何か針のようなものが刺さるのを感じたのを最後にその意識を手放した。

導火線(ビッグヒューズ)大蜘蛛(スパイダー)を倒した。

パリスはスキル『発火』『可燃付加』を手に入れた『火耐性(小)』が『火耐性(中)』に成長した。




同じ蝶でありながら、天敵たる火蜘蛛を打倒したパリスに思わず捕らわれていたメスの蝶は言葉を漏らす。

「す、凄い…。」


「大丈夫か?そこの御嬢さん。……もしかしてオレの活躍にメロメロで言葉も出ない?

いや~イケメンはつらいなー。」


「ふぇっ!? ……べっ、別に一回助けられたぐらいであなたに即惚れたりとか私そんなチョロい雌じゃありませんのでお気におなさらず。」


「またっ…フラれた…だと…?」

(この手のお嬢様はチョロいものだと思っていたオレが浅はかだったか…)


「一応お礼は言っておきますわ。助けていただきありがとうございました。」

「まっまぁ美女を助けるのはイケメンの基本行動の一つだから気にしなくてもいいさ。

それよかご褒美が欲しいな~なんて…って冗談だって冗談。じゃあさよなら。」


「ちょっ、ちょっとお待ちなさい。」

「えっ?」


「でっですが恩を返さなくては名家の名折れ。命を助けられた以上お礼位はさせていただきますわ。

……そうですわね。特別にこの私イレーネ・クラミツハがお付き合いしてあげてもよろしくてよ?」





(ちょっ、チョロッ!!この娘チョロすぎるっ)

先程の言葉を540度覆すかのようなチョロっぷりにパリスは逆に不安になってきた。

「あ~。言いにくいんだけどさ。…チョロいとか言われたことない?」


「この私がチョロいですって?

幾ら彼氏と言えどいっていいことと悪いことがありますわっ。」



あ~もうオレ彼氏なんだ。予想をはるかに超えるチョロっぷりにパリスは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

闇翅蝶(ダークバタフライ)のイレーネ・クラミツハは蝶チョロかった。大体お嬢様やツンデレとはそういうものだ。

森林地帯に見られる火属性蜘蛛モンスター。

導火線蜘蛛(ヒューズスパイダー) E+

導火線(マダーヒューズ)茜蜘蛛(スパイダー) D

導火線(ビッグヒューズ)大蜘蛛(スパイダー) C

瞬炎(イグナイテッド)大蜘蛛(スパイダー) B

深紅(クリムゾン)大蜘蛛(スパイダー) A



炎系フィールドに多い火属性蜘蛛モンスター。

火種蜘蛛│(ヒダネグモ) F+

小火蜘蛛│(コヒグモ) E

火蜘蛛│(ヒグモ) D+

火炎蜘蛛│(カエングモ) C

大火炎大蜘蛛│(ダイカエンオオグモ) B-

火災大蜘蛛│(カサイオオグモ) A+

爆炎禍蜘蛛│(バクエンマガグモ) S

劫火禍蜘蛛│(ゴウカマガグモ) SS

??????? SSS?

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