蝶カッコいいパリス様VS蠱惑の森の女王、リサリア・スカラードラプラス
2対の硝子翅蝶が互いに翅をぶつけ合う。
姉妹の戦いは姉が妹を弄ぶように圧倒している。
オス達の方は、
「言っとくけどオレ男には容赦しないぜ?」
「僕もオスに優しくするのは御免だ。」
「アンタもか。」
「違う形であえば気が合ったかもな。……いややっぱり嫌いだっただろうな。」
「当然だ、男と仲良くなんて気持ち悪い。」
「君みたいな薄っぺらいオスよりマシだ。」
「でもイケメンだ…ぜっ!!」
パリスは会話で多少たりともリーダーの注意を逸らした後スキル『かなり派手に忍ぶ』を使用し一気に注目させる。
一瞬気が逸れたとなまじ自覚があるリーダーは余計に派手に忍ぶパリスに視線が固定された。
パリスはそれを逆に利用しワザと見え透いた攻撃を躱せるように放つ。
『かなり派手に忍ぶ』効果で本来の攻撃以上の範囲と威力があるようなエフェクトがかかる。
リーダーは焦りながらもそれを躱す。しかし躱した先にはいつの間にか『糸』が張られていた。
糸に引っかかったリーダーは直ぐ逃れようとするがそれを見逃すパリスではない。
スキル『姿勢制御』『柔軟性』で攻撃態勢から強引に、
かつ攻撃の動きをそのままエネルギーに転化して『回転』を加え翅を叩きこむ。
その翅には『免疫低下』の効果が強く発現している。
『耐性無効化』程の直接的効果は無いがそれでもリーダーの中の毒や眠り、混乱への耐性が下がる。
そしてその効果を全てパリスは持っていた。
パリスはそのまま回転に任せ何激も翅を叩きこみ続ける。
その翅は全てリーダーの体を斜めに抉るように入り、リーダーは地に墜ちた。
「イケメンのオレ様に勝とうなんて千年はえーよ。整形して出直しな。」
一方姉妹の方は、
「旦那さん、倒れたよ。」
「…使えないわね。」
「…愛しては…いないの?」
「本物の愛と偽りの愛の違いが判るかしら?…なら問題ないわ。」
オスたちとは違い姉妹たちは話しながらでもそれにリソースを取られることなく、
攻撃が緩まることは無い。
それどころか激化していっている。
何合かの翅同士の打ち合いの後突如空気が発火した。
「なっ?何?」
「……秘密。」
その正体はデスワサビを倒した際に手に入ったスキル『低揮発性ガス』『火打ち』。
低温では簡単に誘爆しないが引火性を持つガスを生成し、
局地的高熱で強制的に発火させるスキルで着火したのだ。
蝶の弱点である炎を使うことで一気に妹に戦況が動きかけたその時、
「危ないっっ!!」
突如姉の方が切羽詰ったように妹に向けて叫んだ。
その視線は妹の少し後ろだ。
ユーミアが後ろを振り返ろうとして視線の端に姉の驚愕した表情に僅かに笑みが入るのを見た。
何かが引っかかる。
咄嗟に姉の方を向き直ったのが功を制したのか目前にリサリアが迫ってきていたのを何とか受け止める。
「…よく、気づいたわね。」
「最近…感情のこもった表情がわかったから。」
「表情や感情を否定していたあなたがそんなことを言うとはね。」
「心を否定している姉さんよりはまともだよ。」
再びパリスたちに場面は戻る。
倒れ落ちたリーダーにパリスは告げる。
「愛されてないんだって、可愛そうに。後はユーミアちゃんに加勢して終わりかな?
どうやらリサリアさんオレの事殺そうとしてるみたいだし。」
そういって姉妹の方に向かおうとしたパリスに背後から声がかかる。
「ま…て…。」
「あれっ?まだ生きてたんだ。でもアンタもう助からないよ?毒に随分やられてるし。
オレの事多分ぼんやりとしか見えてないでしょ。それにさ…、
…………それに、自分を捨てた奴を守る意味あんの?――オレなら裏切られたら許さないね。」
「だからどうした……それでも僕はリサリアを愛している。」
「…………アンタ、ちょっとカッコいいな。見直したぜ。」
「最期まで付き合ってもらうぞ。」
「…それがアンタの望みならな。」
毒に蝕まれ脚も触角も翅も折れたリーダーと多少の傷はあるものの損傷が無いパリスの最後の打ち合いは
最初からわかりきっていた結果の通りとなった。
1匹のオスがその生涯に幕を閉じた。
「アンタみたいな兄貴なら悪くなかったかもな。」
一方そのころ姉妹たちの決着も付こうとしていた。
「義兄さん、…死ぬよ。」
「……だから?」
発火を使い迫りくるユーミアを先読みの力を全開にしたリサリアはその全てを躱しきる。
更には爆風の風に乗った勢いすらも利用して逆にユーミアに翅を叩きつける。
逆に手詰まりになってしまった状態でユーミアは思考する。
自分より未来を知る相手に勝つ方法は……一つ心当たりがあった。
全身系と直感を総動員して翅を叩きこむ。パリスとの戦いの焼き増しだ。
「……そこっ。」
しかしそれさえもリサリアの予想の範囲内であった。
「やったと思った?あなたらしくはない戦い方。…あのオスの影響かしら?」
「夫婦は似てくるもの…らしいよ。姉さんたちは?」
その返答は振り下ろされる翅であった。
「先の先の先の、そのまた先を読む戦いをあなたに教えたのは誰だったか思い出せた?」
「話を…逸らさないで。」
「そうやって意識を逸らさせて虚を突く戦い方も教えたわね。懐かしい。」
「…ボクにはもう…わからない。」
「いいの?常に思考を回転させろ。そう教えたはずよ。
この世界の要素の全てを理解しつくして計算しきれれば百年先を読むことだって無理ではない。
アレは冗談で言った話ではないわ。」
「……世界を推し測る者。」
「そう、きっと私ならいつかそこに届く。いえ届かなくてはならないの。
だから計算が外れる事なんてあってはいけない。
…あなたには私の研鑽相手になってもらいたかったのだけど、
あなたは表情と感情を隠して鍵を架け、逃げたわね…。」
「それは、…姉さんが……」
ユーミアがそういった時だった。
「危ないっっ!!」
再び姉が妹に向けて叫んだ。先程と同じその視線は妹の少し後ろだ。
そういうとリサリアは先程と同じようにユーミアに接近し…『その横をすり抜けた』。
「二度も……えっ?」
姉の攻撃を受け止めようとしたユーミアはすり抜けた姉に驚愕し、
更に背後からの咀嚼音に呆然とする。
業火纏う不死鳥 RANK SS
ありえない存在がそこにいた。何故ここにいるのか、なぜ今まで気づけなかったのか、
なぜその炎が消えかかり今にも息絶えそうな様子なのかはわからないが
姉の下半身が既に不死鳥の口の中にあるのはユーミアには理解できた。
リサリアはその翅を強引に不死鳥の左眼にこすり付ける。
炎に包まれた健在な不死鳥であればそもそも近づいただけでその炎の燃え滓となるのだが、
今の弱った不死鳥はあまつさえ自身が咥えた獲物の反撃を許してしまった。
リサリアは自身の中に残るすべての力を劇毒という言葉ですら生々しい何かに変質させ
それを翅の先に集めた。不死鳥の左眼はどろどろに溶け落ち思わず悲鳴を漏らす。
その反動でリサリアの躰を真っ二つに噛み切ってしまった。
不死鳥はそのまま遠くへ飛び去っていった。
恐らくは死と再誕の時期が近いのだろう。健在な不死鳥であればこの森が燃え落ちていたかもしれない。
今回この森で不死鳥がもたらした被害は虫一匹だけであった。
「……姉さん、……なんで?」
「なぜ…かしらね、私には解からないわ。心、なんて。」
普通は姉妹最後の語らいはそっとしておくものだが、
あいにくパリスはそんなに他者に気遣えるものじゃなかった。
「リサリアさん大丈夫…じゃないよな。」
「無様でしょ?これが敗者の姿よ。嗤いなさい。これでこのコミュニティーはあなた達のもの。あなたの策通りよ。」
「オレ、途中から何かおかしいとは思ってたけど、何か勘違いしてない?」
「勘…違い?」
「そっ、勘違い。勿論可愛い女の子はみんな貰うけど、策なんてなくても俺イケメンだし?」
「えっ…?」
「姉さん。…パリスはもっと薄っぺらいよ?…後、浮気は反対。」
「………そう、世界中のことは判らないけど、私の周りの世界はもっと簡単に考えてもよかったのね。」
「そうさリサリアさん。もっとシンプルに生きてればよかったんだ。
イケメンサイコ―可愛い子サイコ―って。もっと気楽に行けばよかったんだって。
世界は計算とか策謀とかじゃなくこんなにもLOVEとPEACEで溢れてる。※但しイケメンなオレ様に限る。」
「ふふふ、そうね…。
私はそろそろ向こうに行くわ。
…こんな私でも愛してくれた夫が待ってるから。じゃあユーミアを宜しくね…。」
とある国では蝶には死者の魂が宿っているという。
だから戯れる二匹の蝶がいたらそっとしておいてあげよう。
その蝶たちは生前は恋人や夫婦であったのかもしれないのだから。
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