蝶カッコ悪い魔王様VS嘗ての妻達
魔王ラクサーは周囲の人間の集落を襲っては焼き尽くした。
他のメスに対して振る舞う慈悲も、人間の女にはかけることは無かった。
…もっとも慈悲があろうとなかろうとその結末は同じなのだが。
村一つを軽々焼きつくし、他の村を焼き尽くしに又魔王ラクサーは飛び立っていった。
魔王を止めるための女神の御使いは現れず、
何処までも魔王は暴虐の限りを尽くしていた。
時折長い休止期間を取ることもあったが、時折思い出したかのように周囲の異性を惹きつけては帰らぬものにした。
今のパリス、いや、もはやパリスではなく魔王ラクサー(LUXUR)とは、
愛(AI)無き色欲(LUXURIA)そのものなのだ。
あの日魔王が誕生し、あの日から長い、長い年月がたった。
魔王を止めに来たのは勇者でも英雄でもなく、嘗ての魔王の妻の一匹だった。
「……コロしニきたカ?…とウゼんダな。」
「いえ、駄目ですわね。父を殺し、妹も殺したあなたをどれだけ憎んでも、
それでも、愛しているのですから。」
「…ソウか、デはオまえもアイしてヤるよ。」
「私は黙って負けるつもりはありません。
……せめてあの子が好きだったあなたに戻せないと。顔向けもできないですから。」
「ダカラ…カ、ミナいウチにズイブんトアイシがいノアリソウなスガタにナッタとイウものダ。」
「戦いは好きではないのですが、あなたにそう言ってもらえるのなら頑張ったかいはあったようですわね。
あなたが焼き尽くしたあの子の燃焼物から手に入れた因子が力をくれました。
―――――――――――――クラミツハの完成形、見せてあげますわ。」
VS コクテンノコチョウ RANK SS+++
「仄昏き水龍っ!!」
何処までも暗く淀んだ水が捻じれあがり、龍の型をとってラクサーに襲い掛かる。
「コレは…。………ダがムダだ。」
ラクサーはその翅を向け龍に小さな炎を飛ばした。
ほんの小さな炎であったが龍とぶつかった炎は爆発し、龍を道連れに姿を消す。
爆発した龍が霧になりパリスの視界を塞いだ。
「これで終わり……だと思いました?」
周囲の霧が再び集まりだし、今度は小さくなった2匹の水龍に変わりラクサーにその牙を向く。
その2匹を同じようにラクサーが弾き飛ばすと先程と同じように今度は更に小さくなった4匹の水龍に変わる。
また、同じようにラクサーが蒸発させると、最初の巨大な水龍に変わっていた。
そうやってラクサーが水龍の相手をしているうちにコクテンノコチョウ、イレーネはもう1匹の水龍を作り出していた。
「変幻自在の水と闇。形無き形こそが私『達』の真骨頂。
あの子の因子が教えてくれる。どう戦えばあなたに届くかを。」
そんなイレーネの願いにパリスは怒りで持って答える。そう、答えるしかなかったのだ。
パリスの炎が大きく燃え上がる。
凄まじい速度で成長していくパリス。このままではいずれ次の位階に届く。
だからこそここが境界線だと判っているイレーネも手を抜くつもりは無い。
「『シキヨク』ヨオレニチカラヲカセ。」
パリスの炎がさらに強く燃え上がる。異性に対しての強力な死への魅了である色欲の炎を撃ち出すつもりだ。
イレーネもそれを受けぬよう前面に水龍を構えた。
そんな時だった。
「ねぇ、気づいてる?今のパリス君。…凄くカッコ悪いよ?」
美しき群青の翼を持つ天使が現れたのは。
「恨むよ。パリスくんを『こう』したこと。……でもメスとしては少し羨ましいかな。
ふふ、『この子』の前でこんなこと言うなんてやっぱり駄目だね。わたし。」
目の前の美しい蝶に何か見覚えがあるはずなのだが、ラクサーにはまるで思い出せない。
「出てきていいよ。マナ。」
「はい、ママ。」
そう言って何もない空間から現れたのは、
かつてのラクサーが上り詰めた硝子翅蝶の更に上の位階に進んだ嘗ての妻に、
包まれて姿を表した可愛らしい白い蝶であった。
可愛らしいのだが何故か興奮しない。
今や醜かろうがなんだろうが無条件に欲望を振りまくラクサーであったが、
目の前のマナという蝶だけはそのような目で見ることができない。
その理由はどこかでわかっていた。…似ているのだ。彼女に、
「あなたがパパ?」
その姿はどこか亡きアイに似ていた。
マナ
実の親はアイとパリス。
藪の中に転がっていた為割られていない卵だった。
名付け親、育て親はティケ。
名前はパリスがメスの仔が産まれたらマナって呼ぶ。
2匹産まれたら長女をマナにする。
オスだったら……考えてねえ。
そう、風潮していた情報から。
母親譲りの優しさと見た目、父親譲りの美形と力を併せ持つ。
ティケの事は大好き。
ユーミアは掴み所がわからない。でも仲は悪くはない様子。
イレーネはちょっと怖い。




